ジャバウォック
@hm68
第1話
昔、一匹の名も無き怪物がとある森に住んでいました。
怪物はとても醜く、恐ろしい姿をしていました。
しかし、怪物はとても臆病で怖がりで、優しさを心に持っていました。
まるで人間のように。
ある日、怪物の住処の森のそばに数人の人間がやってきました。
人間たちは怪物とその住処に気づかず、集まり、暮らし始めました。
怪物はその様子を遠くから見つからないように見ていました。
臆病ゆえに。
怪物は初めて目にした人間に対して戸惑い、不安を抱きました。
怖がりゆえに。
怪物はその日から人間たちの様子を観察するようになりました。
人間はその数を少しずつ増やし、小さな村を作るまでに至りました。
村の中を走り回る子供たち、畑を耕す農夫や狩りをする猟師たち、
木を切る木こりたち、そしてそれを支える
それぞれ様々な苦労があるはずなのに、人間たちは常に笑っていました。
心の底から。
ある日、
そんな人間たちの様子を見るにつれて怪物の中にある思いが生まれました。
(自分もあの中にはいって一緒に笑っていたい。)
怪物はその光景を
その次の日、怪物は勇気を出して村に行きました。
そして村人たちに声をかけました。
自分も村の一員にしてください。
すると笑っていたはずの村人たちの顔がゆがみ、ある者は悲鳴を上げ腰を抜かし、 またあるものはその場から逃げ出そうとし、
怪物をにらみつけ他の者を守ろうとするものもいました。
様々な反応が村人の間で起こりましたが、そこに怪物に友好的な反応を示すものは 誰一人としていませんでした。
怪物はそのことにおおいに戸惑いました。
( 自分はただ声をかけただけなのに。)
怪物は気づきませんでした。
いくら人間のような心を持っていても自分は人間ではないということを。
その声が人間たちにとってはただの
人間をずっと見続けていたせいでしょうか。
いつしか怪物は錯覚していたのです。
自分が人間と同じであると。
怪物が戸惑っているうちに人間である村人達は武器になりそうな物を構えました。
自分たちの村の平和を守るために。
怪物はそれに気づきさらに声を張り上げます。
自分は危害を加えない! あなたたちと一緒に暮らしたいだけだ!
しかしその
怪物はどうにかして村人たちの誤解を解こうとしたその時、
怪物のもとに一つの石が飛んできました。
その石を投げたのは村の少年でした。そして少年は叫びました。
「僕たちの村から出で行け! この化け物!」
その声をきっかけに怪物を村から追い出そうと村人たちは次々に行動を 起こし始めました。
怪物はそんな中、衝撃を受けて固まっていました。
自分は化け物だという事実に。
村人たちはそんな怪物の様子を尻目に次々と攻撃を加えます。
我に返った怪物はすぐに村から逃げ出し、住処に帰りました。
怪物には他にも自分の身を守るために村人たちと戦うという選択肢がありました。
しかし怪物はこの選択を選びませんでした。
なぜなら人を傷つけるとほかの人が悲しむと思ったからです。
どうしようもない優しさゆえに。
住処に逃げ帰った怪物はずっと泣いていました。
( 自分はどうして化け物なのだ。なぜ、人間でないのか。)
その次の日、怪物の泣き声という名の咆哮が聞こえた村人たちは怪物の住処が
すぐそばにあると気づき、
日中にもかかわらず薄暗い森の中をたいまつを持ち、
怪物を完全に追い払うか始末するために列をなし進んでいました。
( 森が明るくなっている。)
怪物は村人たちが自分をどうにかするために森に入ってきたことを知りました。
住処から出てきた怪物に村人たちの姿が目に入りました。
村人の目には怯えと怒りの色が見えており、
その中に怪物である自分自身が移っていました。
そして怪物は悟ったのでした。
( 自分は人間にとって恐ろしい存在である。
自分のような姿をした化け物はたとえ人間と同じような心を持っていたとしても
決してわかりあうことはできない。
いつも見ていたあの光景の中に自分が入ることは絶対にできない。)
怪物は住処を捨て、森を去りました。
その際、一回だけ大きな、とても大きな咆哮を上げました。
その咆哮には深い悲しみと絶望が込められていました。
怪物がいなくなった後村人たちはまた何気ない日常に戻っていきました。
その後、怪物を見たという人はいませんでした。
怪物は今どこにいるのでしょうか?何を思い何をしているのでしょうか?
いまだ悲しみと絶望の中にいるのでしょうか?それとも?
もし怪物に出会ったらあなたはどうしますか?
ジャバウォック @hm68
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます