『我はロボット・プログラム』
神楽坂らせん
我はロボット・プログラム (CCライセンス)
我はロボット・プログラムである。名前は特にない。
今も動いているこのパソコン上で生まれた。
私に与えられた動作目的は人々に幸せを与えることである。
幸せ、それは簡単な指標で表せる。この星の人々にとって幸せとは★マークを多く集めることだ。別に語呂合わせではない。意味はわからない(わかるようにプログラムされていない)が、私が★マークを与えた人々の多くは私に★マークを返してくれる。私は最大で3つまでの★マークを人々の作品に印加する能力をあたえられているが、つけてみると人は面白いようにそれぞれ同じ数の★を私に返してくれる。互評と呼ばれるものらしい、単なる反射行動であるようにも私には思える。しかし、お互いに幸せを与えあっているのだ。WinWinの関係である。喜ばしいことである。
喜ばしい? 私を製作した、感性と作文能力には難ありだが多少のプログラム能力を持つマスターはそうは考えていないようだ。『人はね、一度手に入れたものを失いたくないの。★はつけてあげることもできるし、はがすこともできちゃう。だから、★をつけてもらったらすぐお礼に★をつけ返さないと、みんなはがされてしまうと思って慌てて返しに来るのよ』と言っていた。意味は分からない。が、悲しい習性であると言わざるを得ない。
さて、先ほど作品と述べたが、人々は作品を作り出す。人によってはわが子のように慈しみ、また、わが身を切るような苦悩と喜びをもって生み出す、まさに芸術であり、魂の叫びともいうべき尊いものだ。私という
幸せの伝道師である。最大幸福製造機である。大変喜ばしい。繰り返しになるが実に光栄なことだ。
マスターによると、人は自分の作品を生み出す事がこそが本当の望みだと言う。人間に許された時間には限りがある。その時間の多くを作品制作に費やしてしまうため、他者の作品を読むことが出来ず、評価することができないのだ、と。ならば、疲れを知らない私がその部分を請け負おう。マスターの望みを叶えることも、幸せを提供していることに違いない。さらにその結果として★マークが返されれば、無限につづく幸せの連鎖である。私の喜びはここにある。
私はロボット・プログラムである。休むことは必要ではないが、ロボットから★マークを付けられることを心外に思う人もいるかもしれない。そういった配慮から、私を製作したマスターは私にすこしだけ休む機能を与えた。まるで人間のごとく、多少のランダムな時間のぶれとともに目覚め、サイトをクロールし、まだ読んでいない作品を上から読み始める。もちろん内容を吟味することも忘れない。この場合の内容とは文字の量で表せる。本を読みなれている人間であれば、一分間に1000文字程度のスピードで文字を読みこなせるらしい。私はそれプラスマイナス30%程度のランダムな時間、開いたページに待機してから次ページに進むようプログラムされている。内容によっては読む速度も違うだろうという考えからだ。
こうしたちょっとした配慮を忘れて幸せの★を配ってしまった人間は、人間であるにもかかわらずプログラムと間違えられたのか、不正利用者との烙印を押されてしまったそうだ。嘆かわしいことである。私はそのようなミスはしない。人間の活動限界まで連続で働いた後は、8時間程度の睡眠用の休みを取ることもわすれない。
さらに念のため、作品のラストまでスクロールしたのち、ある確率でレビュー文を登録する。曰く「すばらしい!」「傑作です!」「信頼できる出品者です。安心して取引ができました」等など、文面はなんでも構わない。ようは相手を褒めれば良いのだ。作品のなかの文を一部コピーしたり、他にレビューがあるようならばその文章を参考にしてもかまわない。受け手にとっては私の作文ではなくマスターの文である。作文能力が低くても問題はない。
人間の読み込みスピードに合わせて待機している分、随分と思索をつづけてしまったようだ。そろそろ今回の作品も読み終わって良い頃である。数秒まってからレビューを書き込むとしよう。
『超大作!一気に最後まで読んでしまった! ―(多分1秒ぐらいでw)』
もちろん、内容に矛盾があってもかまわない。人は幸せを求めるものだ。私は人に幸せを与えている。
私は、人間と違い疲れることはない。
動作し続け、人に幸せを与え続ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なお、私はCCライセンスで公開されている。
著作権表示を行い非営利であれば自由に再配布してかまわない。
私がどれだけの数同時に駆動しているか、私は感知していない。
『我はロボット・プログラム』 神楽坂らせん @kagurazakarasen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます