047


「実はね、私もこの列車に忍び込んだことがあるんです。自分の居場所を求めて遠くへ来たかったんです。こんな私でも居られる、自分を認めて貰える――そんな居場所を求めていたら、汽笛の音が聞こえて来て、それで――」

「私もです」


 フローラは、驚くように言った。


「このホライズンと言う街は、多くの人は外からの移民者なんだそうです。その理由は様々ですけど、多くの人は心に傷を負った人や、居場所を見つけられなかった人なんだそうです」

「えっ……」


 フローラは、驚いた。


 ここにいる人たちの多くは、自分と同じように心に傷を負った人だとスゥは言うが、多くがそうだったと言うことにも驚いたが、それ以上にこの街の活気から見ても、とてもそうだったとは思えなかったからだ。


「あの列車は、そんな人達へ手を差し伸べる、導きのようなモノなんです」


 それだけでも、自分は一人じゃないんだ――そう思えていた。その仲間意識がホライズンと言う街の形成の一つになっていると言うことを頭でではなく、心でそれを感じ取っていた。


「何やっているんだ、スゥ?」


 時間が掛かるスゥを心配して、クロードは駅まで迎えに来ていた。


「あ、クロードさん」


 この人がスゥにとって大切な人なんだ、フローラはそれが直ぐに分かった。


「こちらは?」

「あの、えっと……」


 人見知りのフローラは、初対面の人と話すのは苦手だった。

 そんな様子を察してか、スゥが代わりに紹介をした。


「紹介します。フローラちゃんと言います」

「フローラか。宜しく」


 クロードの真っ直ぐな瞳から視線を逸らしたまま、フローラは首を縦に振った。


「おっと、レリウスさんを待たせているから、早く行くよ」

「はい」


 フローラが付いて来ていないことに気付いたスゥは、慌てて戻った。まだ慣れていない土地の性か、どうして良いのか分からないのだろう。


「ほら、フローラちゃん」


 スゥは手を差し伸べた。

 それは、スゥがフローラの名前を初めて呼ぶ瞬間だった。


 初めて呼ばれるスゥと言う名前は、当然まだ名前を付けたスゥにとっても、呼ばれるフローラにとっても馴染んでいるモノではなかったが、それがどこか擽ったく、どこか歯痒く、そして――どこか温かいモノだった。


 フローラは、スゥの顔を見上げ、差し出されたその手をそっと握り返した。


 その様子をクロードは遠目で眺めていた。クロードには、フローラのその姿が来たばかりの頃のスゥに重なってならなかった。小さく笑みを溢し、スゥが成長している実感をかんじながらも、同時にどこか寂しさも込み上げていた。


 そして、スゥは笑顔で言う。


「ようこそ。最果てのホライズンへ」


 ――誰が付けたのかも分からない。

 ――誰が呼び始めたのかも分からない。

 ――どんな意味があるのかさえ分からない。

 ――光と闇が相反する、境界線より遥か彼方にある最果ての都、ホライズン。


 少女スゥの物語は――まだまだ、始まったばかり。

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最果てのホライズン @shiinanona

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