第5話
「二人で敵を倒しに行くとするか」
天文台で一緒に眠った夜が明けると、レキはそういった。狂うほどに激しい夜だった。レキは何度も気を失って、そして、気がつくとぼくも眠っていた。
「敵が世界を征服するべきだという連中がいる。だが、あたしはそれはちがうと思う」
レキはいう。
ぼくは、もうとろとろに溶けていた。レキがかわいすぎる。もっと近くにいたい。もっと触れていたい。もっと話していたい。レキは、ぼくのものだ。
「敵と、今度こそ決着をつけてやる」
「よし、頼もしい味方だな」
レキはそういってくれた。
そして、ぼくはレキと二人で砦に行った。途中で襲ってくる怪物も、ぼくとレキでやっつけた。レキは前の三人とはちがって、自分で怪物を倒すことのできる凄腕だった。剣を武器にどんどん倒していく。ぼくも負けじと、大剣を振りまわし、敵を倒した。
そして、砦の中へ入って行った。
砦の中にも怪物がいっぱいいる。二人でどんどん倒していくのがだんだん楽しくなってきた。ぼくはレキと一緒に戦っている。ぼくはレキの戦友だ。
そして、砦の中を進んでいくと、やはり、あの黒い闇が現れた。
「あれが敵だ」
レキがいう。
「知っているよ」
ぼくが答える。
ぼくとレキは舞うように二人で黒い闇を斬りつける。ぼくの剣は空を斬るが、レキの剣は黒い闇に打撃を与えているようだ。黒い闇が斬りつけられて避けるのが見える。
「おまえたち、わたしに本気で逆らうのか」
黒い闇がいう。
「その通りだ、敵よ」
「逃がさないぞ、敵よ」
レキが答えたのに合わせて、ぼくも答える。レキがいれば、ぼくは勝てる気がしていた。好きだ。好きだ。レキ。
まわりの群衆が、
「敵に逆らうなんて信じられない。やつらは人の心を持っているのか」
と口々に悪さをいった。だが、襲ってくることはなかった。ぼくとレキの戦いぶりを見ている。
「やるな、キリヤ。嬉しいぞ、おまえのようなやつと一緒に戦えて」
「ぼくもだ、レキ。きみといつまでも戦っていたい」
そうぼくがいうと、レキの顔が青ざめた。
「おまえ、まさか、知らないだけなのか?」
レキがぼくに聞いてくる。
「何をいっているんだ。ぼくはレキを愛している。ぼくはレキと一緒になって敵を倒して、世界から敵を消し去るんだ」
「あはははははははっ」
ぼくのことばに黒い闇が笑った。レキは青ざめている。
「やめろ。あたしはキリヤを愛してなどいない。そんなことをすれば、敵の思うつぼだぞ。そんな気持ちで戦っていたら、絶対に敵になんて勝てない」
レキが叱咤する。
「なぜだ。レキ、ぼくを愛してくれないのか。でもいい、いつかそのうち、わかりあえる時が来るよ」
ぼくがそういうと、黒い闇があはははははと笑った。
「敵の正体に気づかないのか、キリヤ。世界を征服するべき存在、神の構成要素、神に次いで強い存在、神よりも強いかもしれない存在だぞ」
レキが叫んだ。
ぼくは剣を黒い闇に振り下ろしながら、答えた。
「いったいそいつは何だ? レキより弱そうじゃないか、そいつは」
あははははははっと黒い闇が笑った。
「敵の正体は、愛だ」
レキが叫んだ。
ぼくたち二人を見ていた群衆がどっとわいた。感動して、拍手している。
愛? 愛だって? レキとの愛は、敵の正体なのか?
「ぼくは、レキと一緒にいたくて、それで戦っているのに。いったい、いったい、どういうことだ」
黒い闇が大きな声で誘った。
「キリヤ、おまえもわたしの仲間だ。おまえはこっち側の人間だよ、キリヤ」
ぼくはレキに向かって叫んだ。
「愛が敵だというのなら、きみはなぜ、戦うんだ、レキ」
「あたしは、愛より大切なものがどこかに存在すると信じて、それで戦っている。あたしは愛がこの世界を救うことを信じない」
「レキ、きみは」
ぞっとした。美しき氷の美少女。
「あたしは哲学者だった。その答えは、愛ではなかった。だから、あたしは戦う。愛を敵にまわして戦う。キリヤ。おまえの答えは、どっちだ」
ぼくは、レキを失いたくなくて、レキを失いたくなくて。
「ぼくはレキを失いたくなくて」
「それは愛だ。おまえはあたしを裏切る、キリヤ」
レキは黒い闇に剣を振るった。
「レキ、きみはあまりにも悲しくて、そして、おそらく正しいのだろう」
ぼくは泣き崩れた。
「ぎょ、この男、愛を見捨てるぞ」
黒い闇が悲鳴をあげた。
レキの剣が黒い闇を斬り裂き、打ち倒した。
群衆が号泣した。
「ああ、愛が死んでしまう。愛が死んでしまう。神は我らを見捨てたまうのか。この世界に滅びよというのか」
そして、氷の美少女は愛を打ち倒した。
ぼくの住む異世界に以後、愛は存在しない。
ぼくは悪魔ラヴエンドを呪った。
異世界では心安らぐ場所もない 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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