猫の世界に厳然と存在するという、「飼い猫」と「野良猫」の格差。
それを描くことから、この物語は始まります。
しかし、作者の説明文にあるように
本作は「猫視線」で語る方法を採用していながら、
あくまで「猫」ではなく「人間」の物語。
会話文がかなり少なめで、延々と続く地の文では
作者と同じ名前の猫・ペイザンヌが語り部となり、
洞察的かつ示唆的な描写が続けられます。
これが、深い。実に濃厚かつ芳醇なコトバの波状攻撃で
思わず「うんうん」と唸ったり、ニヤリとさせられたり……
「お見事!」と膝を打ちました。
ほんの少しだけ引用すると――
わたしはいつもの日課で電車を見ようと駅まで散歩をしていた。
なぜか電車を見るとワクワクするのだ。
人間たちが毎朝毎朝あんなに並んでまで乗りたがる電車というものは
さぞかし楽しいものなのだろう。いつかわたしも乗ってみたいものだ。
(引用ここまで)
という具合で、サラッと読み飛ばしそうな軽い部分にも
深い意味が隠れた文章が仕込んであります。
さらに、ある文字が順に消えていく演出が登場したときには
「これはうまい!」と身を乗り出しました。
とはいえ、実をいうと……
3人称多視点と神視点が行き来するような書き方に
ほんの少しだけ「?」と感じさせられはしました。
でも、それはのちに納得できる帰結が用意されていたし
細かいことはどうでもいい、と思えます。
本作は漫画原作小説コンテスト出品作であり、
まだ未完で、およそ3分の1程度(?)の進行状況ではあります。
が……
これはもう、一刻も早く本にして出版してほしいぐらいに
完成度の高い、見事な文学です。
連載中ですが、文句なしに★★★を差し上げて絶賛します。