第47話  最終章

又吉と紗季は絵の前で立っていた。

ジッと立ち、絵を見ていた。

何も語らず、ただ絵を見るだけ。


紗季はこの絵をこのままここに飾り続けると言

う。

わからなくもない。

紗季と陽子が描かれている。

全ては陽子が仕組んだことだと、又吉も紗季も

気づいていた。


茶番だ、陽子の自己満足だ、そんな気もするが

結果はこうして今、紗季と又吉が並んで立って

いる。


陽子が余命いくばくもないと知った時思いついた

であろう、この(思惑)。

陽子は嬉々として作戦をたてたことだろう。

それがたとえ、自分の死への恐怖から目を背ける

ための所為であったとしても。


「私達この先どうなるの」


紗季が呟いた。

目は絵に向けられたままだ。


私達とは誰と誰の事なんだ。

又吉は一瞬迷った。


「曖昧な表現は相手を試す時に使う作戦よ」


陽子のアドバイスが聞こえてくる。


「陽子さんが敷いたレールに乗っかってみま

 すか?」


「ズルいよ、その言い方」


紗季が又吉を見た。

絵の中から抜け出たような、燃える瞳をして

いる。


「こんな事しなくたって、僕はいつか・・」


「いつか、なんなの?」


紗季の顔はいたづらっぽく頬が膨らんでいる。


「聞いていいかい」


又吉が紗季の肩に手を乗せた。

紗季はされるがままだ。


「この部屋で陽子さんは亡くなっただろ」


頷く紗季に


「その魂はあの絵に入ったとして」


紗季が少し首を傾げ絵を見た。

しかし直ぐ視線を又吉に戻すと、又吉に先の言

葉を促した。

笑顔のままだ。



「陽子さんの前で僕が紗季ちゃんにキスして、

 陽子さん化けて出てこないかなあ」


一瞬、紗季の身体が固まったが、直ぐ


「じゃあ、裏向ける、あの絵」


紗季の言葉と同時に

又吉は沙希を引き寄せた。


「いや、その方が恨まれそうだよ。ここはきっ

 ちり陽子さんに結果を見てもらわないと」


言うと突然、又吉は紗季に唇を押し当てた。

紗季も又吉の肩に両腕を絡ませるた。


開け放たれたベランダから一陣の風が吹きこむと

壁に掛けられた絵がカタリと少し傾いた。


一瞬唇を放し、絵を見た二人だったが、そのまま

又抱き合うと


「姉貴妬いてるみたい」


今度は沙希の方から又吉に唇を合わせていった


          終わり

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真理蛙の滴(マリアのしずく) fuura @fuura0925

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