第3話 恋愛メガネ

「普通のメガネにしか見えないけど…」

 

 メガネを手に取り、まじまじと見てみる。

 神様と名乗る謎のおじいちゃんの話を聞き、だいぶ落ち着いてきた。

 彼の話をまとめるとこうだ。


 神様といっても、様々な種類の神があり、神様の数もかなりいるそうだ。その一つが恋愛の神様。この神様は、元々違う種類の神だったそうだが、人間世界で言う『会社内の部署移動』みたいなことがあり、今月から恋愛の神をすることになったそうだ。そして、人間の恋愛成就をさせて成績みたいなのを稼ぐ必要があり、恋愛しにくそうな人の恋を成就させるほどポイントが高いとのこと。そこでこの神様がまず目をつけたのが、20年恋愛経験なしの僕であったと。なるべく早くポイントを稼いで元の神様に戻りたい、という強い願望があるらしい。


 そんな非現実なことなのに妙にリアルな話を聞いていくうちに、僕の緊張も緩んでいった。とりあえず悪い人ではないみたいだし。


「まあ、とにかくかけてみろ。話はそれからじゃ」


 自分のメガネを外し、神様が創ったというメガネをかけてみる。おお、ほんとに度もぴったりで見えやすい。


「それではその『異性の好感度が見えるメガネ』について説明をしてやろう」


 神様がこほんと咳をし、雲の上で立ち上がる。そして杖っぽいものを振ると、神様の頭の上に透明なハートが現れた。その数…えと、10個だ。きれいに横一列に並んでいる。


「今は説明のために出したが、本来は『異性と話している時』にしかこれは出んからな。あと、話し始めたらどこでもいいからメガネをちょんと触る。そしたらこのハートが現れるぞ」


 へー。好感度が表示されるってなんか恋愛ゲームみたいだ。ていうかそもそも、好感度ってそういうとこでしか使わなくないっけ?


「人間はゲームでも恋愛をするそうじゃろ?だからそれを参考にして、わかりやすいものを考えた結果がこれなのじゃ」


「ほ、ほんとにゲームを参考にしてたんですか…」


 なんかすっごい真面目な人なんだな。


「で、その好感度なのじゃが、色と数で表される。色はピンク・青・黄の3色。それぞれが10段階で表示されるのじゃ」


 神様が杖を振る。10個のハートが全部ピンク色で染まった。


「ピンクはお前を異性として見ている証じゃ。こうなっとれば告白したら大概成功するじゃろう。むしろ告白されてもおかしくないくらいじゃぞ」


 なるほど。ちゃんとした恋愛ゲームはしたことないが、野球がおまけの恋愛ゲーム、と揶揄されてる野球ゲームは昔からよくやっていたので、好感度というシステムはすんなり頭に入ってくる。


「次は青色じゃ。これはお前への友情度じゃ。異性としてより、お前個人を好いとる気持ちが強いと青色で溜まっていくのじゃ」


 ハートが青色で染まる。なるほど、普通に仲良いだけだと青色ってことなのだろうか。


「そして黄色。これは恋愛でも友情でもなく、目の前のお前個人に興味がある場合じゃ」


 今度はハートが黄色に染まる。


「それって…青色とは何が違うんですか?」


 僕に興味がある点については同じような気がする。それに、異性として見ているかどうか、自体に厳密なラインみたいなのがあるのだろうか?


「まあわかりやすく言うと、例えばレストランとかに入るじゃろ?そこでウェイトレスさんに接客されたとする。その時、そのウェイトレスさんの好感度は普通黄色で表示されるはずじゃ。お前のことは赤の他人でも、客としてのお前にはちゃんと気を配るわけじゃからな」


 ははー。なんとなくわかったような気もする。人間としてか、福見雅人としてかといった違いなのだろう。


「ただし。これらはあくまで、相手の意識上での気持ちを表しているにすぎん。相手が無意識、潜在的にお前に好意を感じていても、本人がわかってなかったら青や黄でしか表示されんからな。そこは覚えておくのじゃぞ」


「え…無意識だとわからないんですか?神様ならそこまでわかったりしないんですか?」


 以外に万能ではなくてびっくりした。


「神様だからといって、お前らの世界で言う超能力的なことが何でもできるわけではないわい。いいか、そもそも人間の感情自体、はっきり数値化できるものではないんじゃ。実態があるものでもないしのう。それを何とか可視化できるようにした結果がこのハートなのじゃ。自覚のない感情まで表せるほど、人間というものの方が単純ではないんじゃよ」


 ははぁ、なるほど。


「まあ確かに…相手のことが好きだとして、それが恋愛感情なのか、ってのは、結局自分で決めるかどうかな気はしますね」


 相手を本当に異性として好きかどうか、ってのは今までも何度か悩んできた。でも、いつも答えは出せなかった。

 もしかしたらこれは、自分自身の感情とも向き合えるチャンスなのかもしれない。


「わかりました。明日からこのメガネ使ってみます。恋愛する…かどうかは、まだわかんないけど」


「それは困るわい!お前を恋愛させるためにワシは来たんじゃからな!ワシとしては、好感度の高いやつを見つけてさっさと告白でもしてくれればそれでいいんじゃからな!」


 何か怒られた。だったらこんなまどろっこしいことしなきゃいいのに…。

 

 まだギャーギャーと文句を言っている神様に苦笑いをしながらも、僕は少し変わっていく日常に期待を膨らませていたりもした。


 


 

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恋愛ゲーム(リアル) 何かしらの大福  @tmdk1517

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