或る月夜の話

@pikax

第1話

オイラの名前は引 篭郎(ひき こもろう)。

19歳だ・・・ちなみに引きこもっている・・・・

ココ何年か自分の部屋から出たことも無い・・・

カーテンも開けない。


最近おかしな夢を見る。

真っ暗な部屋?倉庫?

そこに一杯に人が押し込まれている。

暗くてよく見えないんだが・・・

そこに自分もいる。

隣には女性がいる、毎日同じ夢を見るから・・・

其のコとも仲良くなったww

其のコは名を「ケイ」といった。

ケイはいつも言う「外に出たい、あの扉の向こうの明るい世界に出たい」

オイラはいつも「いいじゃん、ここにいればご飯も勝手に出て来るしさ」

と答える。

正直言うと怖かった。

あの扉の向こう・・・一日に何回かあの扉が開く、光が漏れこむ。

そうするとこの部屋から何人かが連れて行かれる・・・・

何分後か・・・扉の向こうから・・・彼らの劈(つんざ)く様な悲鳴が

聞こえる・・・。

ケイは言う「だって・・・こんな人生に何の意味があるの?」

その辺で夢は覚める。


カーテンの隙間から漏れる光がうっとおしい。

部屋のドアの向こうから何日も顔も見たこと無い母の声がする・・・

「篭郎・・・ここ、ご飯置いとくから。」


足音が遠ざかるのを確認してからご飯を取りに行く。



毎日そんな生活・・・。


今日も1日が過ぎてゆく。


其の夜・・・・

いつもの夢・・・最近では正直夢の中でケイと話すほうが楽しい^^;

でも・・・其の日は違った・・・・

例のドアが開く・・・・何故だ?今日は光が漏れこまない・・・

部屋内はイロメキダツ・・・・

足音が近づいてくる・・・

「ま・さ・か!?」

暗闇で何かが光る・・・大きなハサミだ。

オイラは自分の目を疑った。

今正にケイの首を大きな手が・・・・

「ケイ!!!!」

嘘だろ・・・何でケイが!?

目が覚める・・・・涙が頬を伝っている・・・。



時計に目をやる・・・

「まだ朝の4時かよ・・・・」


気分が悪い・・・あんな夢のせいだ。


其の時・・・

ドサ・・・

家の玄関?あたりで音がした・・・・。

「何?ナンか倒れたような音だな・・・」

まだ朝4時・・・親も寝ているな・・・

オイラは見に行ってみた。


玄関を開けると・・・

目を疑った・・・・

女性が倒れていた。


Σ(゚Д゚;o)

一瞬事態が飲み込めなかったが・・・

とりあえず新聞配達員にでも見つかったら通報されそうだから・・・

部屋に運び込んだ。


彼女をベットに寝せる。

「・・・・・」

死んでは・・・いないようだ・・・・。


「ん?」

ふと自分の部屋の入り口から、ベットまでの間に何か落ちているのに気づく。


「羽??」

真っ白な羽が何枚か・・・転々と落ちていた。

・・・・・・


「オイラは天使を拾っちゃったのかしら?」



カーテンの隙間から光が漏れ始めた。



「・・・う・・うぅ~ん・・・。」

彼女が目覚める・・・。


オイラは「はっ」とした・・・・。

「この声・・・・

彼女と目が合う・・・・

薄暗い部屋・・・・

彼女が口を開く・・・・

「篭郎?」

オイラの胸の高鳴りは確信に変わった・・・・

「・・・・ケイか?」


神の悪戯?

オイラたちは確かに今オイラの部屋に一緒にいる。




ケイはあの扉から出た瞬間必死に暴れて逃げ出したらしい。

闇雲に走って・・・走って・・・・


気がついたらここ(オイラの部屋)にいたらしい。

ケイは言葉はわかるがオイラにしてみれば当たり前のことを知らなかった。

TVに感動した、漫画に感動した(字も知らなかったがすぐ覚えてしまった)、

特にオイラのマニアックなヲタアニメ等が気に入ったようだww


だがアレだけ外に出たがったケイだったが昼間カーテンを開けると「明るくて目が痛い」と

言ってカーテンを開けることが出来なかった。


母には毎日2食ご飯を頼んだ。

最初いぶかっていたが、オイラが「最近食欲があるんだ」と、ドア越しに言うと、

少し嬉しかったのか何も聞かなくなった。


ケイは変わっていた、ある日、母が「篭郎、今日は篭郎の大好きなチキンカレー

よ^^」と得意のチキンカレーが夕飯に出た。

二人で食べ終わると彼女の皿には肉が全て残してあった。


ケイは肉を食べないらしい・・・・

オイラは「この子は本当に天使なんじゃないかしら?」と、思った。


夜・・・おいら達は親の目を盗んで外に出る・・・・

ケイは憧れだった世界にはしゃぐ。

「篭郎は毎日こんな広い世界にいたんだね^^うらやましい・・・」

オイラは「リアルでは引き篭もっていたんだ」・・・とは言わなかった^^;


「今はこうやって2人で外を歩いているじゃん^^」

オイラは言う・・・

ケイは少し悲しそうな顔をする・・・・


「?」

其の時僕にはその意味はわからなかった・・・・。


「ねぇ、アレが太陽?」

ケイが月を指差す。


「違うよ^^アレは月・・・ムーンだよww」

オイラは笑う。


「アレが月かぁ^^篭朗のアニメの・・・なんだったけ?」


「ん?シャイニングムーンかい?」


「そうそう^^あのムーンの必殺技・・・ム~ンシャイニングクラッシャ~!」


おいら達は笑うwww


「篭朗が危ない時は私もあんな必殺技で助けてあげる^^」

ケイは言う・・・


オイラはまるで本当にケイが月の女神のように見えたww


そんな日々が1週間続いた・・・・・



其の日・・・ケイは元気が無かった。

「どうした?」

聞いてもケイは答えない。


おいら達はいつものようにシャイニングムーンのDVDをひとしきり観て。

夜を待った・・・・。


夜・・・いつもの様に2人公園を歩く・・・・

不意にケイがオイラに抱きつく・・・

ドキ・・・っとした。

其の夜オイラはファーストキスを体験した。

初めてのキスはお互い初めてだったためか・・・

冷たく、唇に刺さるような感じだった。


目を開けるとケイは目に大粒の涙を溜めていた。

「一体今日はどうしたの?」


「お別れなの・・・・」


オイラは崖から突き落とされたようだった。



部屋に戻る・・・。


ケイは話し始めた・・・・

「あの時・・・私はあの大きな手から逃れて・・・空に向って叫んだの・・・」


「助けてって・・・広い世界を知りたい・・・もっと篭朗と一緒にいたい・・・

って・・・・」


「そしたら・・・お月様が光って・・・気がついたら篭朗の部屋にいたの・・」


「でもね・・・其の時・・確かにお月様は1週間・・・って言ったの・・・」


「其の時は1週間って意味がわからなかった・・・」

ケイはそこで泣き崩れた・・・


でも今日は確かに1週間目の夜だ・・・・

ケイは泣いている・・・・オイラも涙を我慢出来なかった・・・・

おいら達は離れないように・・・お互いの手首をコードで縛った・・・・


そして部屋の隅に2人・・・・

夜が明けるのを待った・・・・・



何時間経ったろう・・・・

おいら達は寝てしまったようだ。


目を開けると・・・そこはあの夢の中だった・・・・

ケイが来てからは1回も見ていなかった夢・・・・

「しまった!!」

オイラは隣を見る。

少しほっとした・・・

ケイは居た・・・震えている・・・・。


「大丈夫・・・オイラが守るから」


オイラにはわかった・・・コレはあの日の夜だ・・・

ケイが連れて行かれた夜・・・・

「オイラがケイを守る・・・・」

ケイの手をぎゅっと握る・・・・


何でだろう・・・・其の手に力が入らない・・・・


不意に扉が開いた。


やはり光は漏れこまない・・・・

「やっぱり・・・・」


大きな影が近づいてくる・・・・

「今日は孫に新鮮な肉送ってやらにゃぁいかんから早く締めんと・・・・」

どうやら大男らしい・・・

「肉って・・・おいら達のことか^^;」


案の定大男はケイに手を伸ばす・・・

「えぇ~~いままよ!!!」

オイラは其の手に首を差し出す!!!


「お?なんじゃ?お前が行きたいンかい?」

其の声を間近で聞いたとき・・・違和感があった・・・

でも直後・・・

ぎゅう・・・・

苦しい・・・・オイラは首を持たれたまま外に出た・・・・


まだ月が出ていた・・・・大きなハサミに冷たく映って光る・・・・


「あぁ・・・オイラは死ぬんだな・・・・でもケイを救えるんなら・・・

オイラなんて・・・・どうせヒッキーだしwww」


諦めた瞬間・・・・

月夜に浮かび上がった大男の顔が見えた・・・・


Σ(゚Д゚;o)オイラは目を疑った・・・・

なんとそれはオイラの祖父だったのだ・・・・


其の刹那・・・

背後で羽ばたく音がした。


バサバサ!!!


月を背後に何かが羽ばたいた・・・・

「ケイ?」


なんと月夜にケイが羽ばたいている・・・・

背中には真っ白な羽が・・・・


空中から弧を描いて彼女が落ちてくる・・・・

「ム~~~ンシャイニングゥ~~~・・・・」

「ブロイラァ~~~~!!!!!!」


Σ(゚Д゚;o)

オイラはケイに蹴り飛ばされて草むらにはじけ飛ぶ。


最後にケイは微笑んだ。

オイラはあの夜の・・・

「篭朗が危ない時は私もあんな必殺技で助けてあげる^^」

ケイの言葉を思い出し・・・意識が途切れた・・・・。


目が覚める・・・・

オイラの部屋だ。


オイラはすぐにコードをたぐる・・・・

コードの先にはごっそり真っ白な羽だけが・・・・


ケイは居なかった・・・・。


オイラの祖父は田舎で養鶏場を営んでいた・・・・

あの夢はその祖父の養鶏場内だったんだ・・・

オイラは全てを悟った・・・・。



部屋を見渡す。

「はは・・・あの養鶏場と同じじゃん・・・・」

オイラもブロイラーも変わらんなwww


足音が近づく・・・

「篭朗、今日は義父さんのところから締めたての鶏が届いたから^^

篭朗の大好きなチキンカレー作るね、楽しみにしててね」


夕方・・・部屋の前にチキンカレーが2皿置かれた・・・・

恐らくコレは・・・・


オイラは泣きながら全てたいらげた。


彼女は自分の運命にあの部屋でたった1人懸命に立ち向かった。

オイラはあそこにいた其の他の、只自分の番を待つだけのブロイラと同じで

良いんだろうか。


オイラはその日食べ終わった食器を台所まで運んだ。


「ごちそうさまでした。」

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