ビデオレター
れきそたん
ビデオレター
私は母親がどんな人なのかは本当は理解出来ていない。
幼い頃に父から『お母さんはここで見てるよ』と言われて遺影を見た程度だ。
なんだか優しそうな人だなと幼心思った。
幼稚園に通うようになった三才の誕生日に初めて母の声を聞いた。
『三才の誕生日おめでとう。もうお友達が出来たかな。貴女はピーマンは食べれる?ママは苦いのがダメだったんだよ………』
私は本当に母がいると喜び会いたいと言っては父を困らせた。
それから毎年誕生日の度に、ビデオや手紙で母からのお祝いを観るのが我が家では習慣になった。
『小学校入学おめでとうランドセルは何色………』
『卒業おめでとう…………』
入学式や卒業式それに誕生日………ビデオの母は変わりは無かった病院のベッドから映したであろう寝間着姿のままだ。
当然ながら私は成長していった。
18才の誕生日のビデオには二本されていた。
一本目はいつもの私の誕生日を祝うものだった。
『18才の誕生日おめでとう。お父さんこの娘を大切に育ててくれてありがとう………』
二本目を見始めると父はビデオを一時停止をする。
父の隣には秘書の女性が座っている。
派手な感じはしないけど不思議と安心出来る雰囲気がある母に良く似た女性。
最近家に来る彼女を私は歳の離れた姉のように慕って父には言えない悩みとか相談している。
「………あのな」
「お父さん、その話は仏前でも構わない?」
父は何に気を使っているのか言葉を詰まらせていた。
「………報告しませんか?私、話をして認めて貰いたいんです」
仏間に入り遺影を見た彼女は何かを話すわけも無く、ただただ静かに泪を流していた。
この時初めて彼女を家族に向かい入れる気持ちが出来た。
「ビデオの続きを観よっか」
居間に戻ると三人掛けのソファーに父と新しい母の間に私は座りビデオの続きを再生ボタンを押す。
『今……何人で観てるのかな………もし新しいお母さんとなら………宜しくお願いします。ただ………心残りは………わたし死にたくない!…………娘の成長も見てない!一目………せめて一目花嫁姿が………』
お母さんからのメッセージはそれで残ったのは二本。
成人式の御祝いと、結婚式用に作られたビデオレター。
そして今私は私の夫となる人と結婚式のビデオレターを披露宴で観ている。
彼の義母も含めれば三人の母に二人の父から祝福されて幸せな人生である。
ビデオレターを観て涙する私の手を、テーブルの下でそっと握ってくれる彼の優しさで私は新しく家族を築いていける喜びで胸が熱くなった。
ビデオレター れきそたん @1123op
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます