津波

3

彼はメディアを掌握していった

テレビから政権に批判的な人が

次々と消えていった

止まっていた原発は

次々と動き出した

あの事故の責任を

誰一人として取ることなく

甲状腺癌は増え続けたが

原因はわからないと

医者たちは言い続けた

アメリカの基地の建設は着々と進み

抗議する人々は警察に排除された

警察は市民を守らなくなった

不況は二十五年目になったが

国は緩やかに回復していると言い続け

反対意見はなくなった

トリクルダウンの名の元に

持っている人にはなお与えられ

持っていない人からは

持っているものまで取り上げられた

人々は自分の仕事を奪われ

大企業の使い捨ての駒となった

若者が貧しくなるにつれ

子供も消えていった

憲法を守れと言うだけの人たちを

思想犯とみなすようになり

公安が監視するようになった

国民に総背番号を与え

病歴も思想も何もかも

国が管理するようになった

憲法違反を平然と犯し

外国で戦争をする法律を

暴力で押し通した

国連から何度警告されても

国連が間違っているのだと言って

世界を敵に回し始めた

副首相がナチスの手口を学べと言っても

人々は何も言わなくなった

民衆は茹で蛙になってしまった

気づけば、戦後は終わっていた

新たな戦前が始まっていた

全体主義の軍靴の音は

すぐそこまで迫っていた

それでも一部の人々は声を上げた

このままでは戦争の時代になる、と

だが国民は言い続けた

アベの方がましだ、と

あの地震から五年が過ぎた

アベはついに憲法を変えた

彼が法律を自由に作れるようになった

民衆は熱狂の中で

独裁者の誕生に歓喜した

自由に物言えぬ空気が

社会に蔓延していた

この頃だったのだろうか

政府に物言う人たちが

次々と消えていったのは。