辺境の村に嫌われ者の美女がいた
辺境の村に嫌われ者の美女がいた。嫌味で、傲慢で、人を見下し、嘲笑い、軽薄で、排他的で、礼儀を知らず、誰の役にも立たず、自分勝手で、うぬぼれ屋で、狡猾で、軽薄で……内面が醜ければ醜いほど外見は美しく、外見が美しければ美しいほど内面は醜く、同性からは当然のように嫌われ、色欲豊かな異性にでさえ、三秒も経てば美貌に奪われた目も覚めるという筋金入りの悪女であった。
ある日、異端審問官と名乗る男が村に来た。行く先々の都市・町・村で魔女を処刑するのだという。この村に魔女はいるかと尋ねると、ええおりますとも、この村一番の嫌われ者は魔女ですよ、とほとんど誰もが口をそろえた。処刑してもよろしいか、と村人は言った。ご自由に、と審問官は言った。私は問うことしか許されておりません。まだ巡らねばならぬ土地ばかりゆえ、失礼させていただきます。一日と滞在せず審問官は足早に村を去って行った。
村人たちは処刑の方法を考えた。火を使う、水を使う、毒を使う、切る殴る首を絞めるといった案が出た。美しい体に罪は無い、と欲深い男の一人は言った。死後の体を愛でたいという男が合計六人、手を挙げた。悪趣味だと思う女もいたが、早く処刑を済ませたいので反論する者はいなかった。結論としては、首と両手両足を切り落とし、①右腕②左腕③右足④左足⑤胴体⑥頭と希望者に分割することで話がついた。一に胴体、二に頭と希望が集中したため男たちは平等なくじ引きで取り分を決めたのだった。
処刑の日、嫌われ者の女は十字に組まれた丸太に縛られた。悪態を吐きながら斬られる時を待っていた。誰が斬るかと村人たちが揉め始めると、意気地なしだね! と甲高く叫んだ。村人たちは考えた。斬り損じがあっては不幸だろう、あの女にとっても、そして自分たちにとっても。村で一番器用な少年に処刑用の斧は渡った。
少年はくちびるを噛み、鋭く斧を振り下ろした。
しなやかな右腕が血を吹き飛んだ。
少年は歯を食いしばり、鋭く斧を振り下ろした。
なまめかしい左足がごとりと落ちた。
少年は目に涙を浮かべ、鋭く斧を振り下ろした。
左腕も右足も美しく斬り落とされた。
嫌われ者の女は叫んだ。呪詛と苦悶の込められた言葉にならない声だった。
少年は渾身の力を込めた。それがせめてもの報いだと思った。首が飛んで、嫌われ者の女は魔女になった。村人たちの悪意が魔女を生んだ。生首の叫びが言葉を経て呪文となった。両腕が飛んで村人の首を絞めて殺した。両足が跳ねて村人の顔を砕いて潰した。少年は自分も死ぬのだと思った。呆然と斧を落としたときには惨劇も終わっていた。高らかに笑う魔女の生首は嫌味を言った。坊主、見事な斬りっぷりだね。これならつなげるのも簡単だ。さあ、裁縫道具を持ってきな。お前は村一番の器用な子供なんだろう。死にたくなかったら早く仕事にかかっちまいな。
首と胴、次に腕と胴がぴったりと縫い合わされた。足は自分でやってよと少年は言ったが、あたしは不器用なんだよと魔女は断った。足と胴の縫い口も見事なものだった。魔女が不敵に笑うと少年は頬を染めてうつむいた。実はぼく、裁縫のほうが得意なんだ。女々しい男だね、と魔女は言った。首の縫い口を手でさすり、その感触を確かめている。傷物になっちまったから言うけどね、そういうのも嫌いじゃないよ。
怪奇小説掌編集 ねくす @nex_f8f8ff
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