素行始末記

　山口県熊毛郡平生村田布呂木（たふろぎ）の林の奥に粗末な庵が建っていた。そこの主は名を白井小助といい、号を「素行」と称していた。
　維新直後には周防平生村の造り酒屋の用心棒をしていたという。だが元々は長州藩家老浦家の家臣で兵法家の長男として生まれた。二十歳前に江戸へ遊学し、剣は江戸は斉藤弥九郎の道場で学び、学問は佐久間象山などから洋式兵法を学んだ。
　ただ白井小助は志士たちの師匠吉田松陰よりも七歳も年上で、生まれた時代が維新の志士たちより十数年も早かった。そのため明治政府に出仕することもなく、田舎で子供たちを相手に朽ち果てようとしていた。