それも価値観の相違によるもの

久し振りになるのか、いいやそうでもないのだろうか。いやいや何のことはない。おれはいつも通り、何事もなく硝子越しの世界を愉しんでいるさ。

さておき、そうだな。是から語ることは所謂反社会的な物言いにも聞こえるだろう。そういう意図が皆無とは言わないが、わざわざ闘争を煽る意味合いはないのでさらっと流してほしい。そうそう、お茶漬けみたいにね。

まあそう言う訳で純粋な疑問なのだが、キミたちはどうしての生命活動ひとつをそんなに太陽みたいに崇め奉れるのかな?

ああいや、勘違いはしないでほしい。生命は尊いものだ。むやみやたらに奪おうってことはないさ。けれど疑問なんだよ、生きているというのことに、如何程の価値があるのか、という事がね。

うん?おれが其れを疑問に思う事こそが疑問かな?では少々冗長になるが説明しようか。

まあ、説明しがたい事ではあるし長くなるのだけれどね、所謂この疑問の根底は「生命活動をする生命体」としてのそのものの価値は、英雄だろうがおれだろうが──極端に言えば人だろうが獣だろうが、1という考え方に基づくものだ。

生命は平等にただ一つの価値を持って生まれる。けれど、ただ生まれたそれにはその「1」の価値しか存在しない。生まれ落ちた命に名が付いて、経験を経て、名声を得て、功績を積んで、そうして生命体の価値は上昇する。

ここで例えば「洲岸満おれと名乗っていた誰か価値なき人」と「内閣総理大臣の肩書を持つ誰か価値ある人」、それぞれが死んだときに与える影響の大きさ、そのが生まれている。これくらいは分かるだろう?

それは勿論当然のことだ。おれ一人死んだところで、まあ仕事場の人間に多少の影響はあるかもしれんが──世間の大波に何の影響もない。けれど今を時めく政治家殿が死ねば政界も社会も大混乱だ。無責任とキレる人も、憐れむ人も明日を憂う人も溢れかえるだろう。おれはこの反応の差を価値の差と仮定義している訳だ。

けれど何か勘違いして、皆が持ってる「生命活動をする存在である」という1の価値が絶対的なモノ、その1の価値が全てとか言う人がいる。たかが生命体であることが尊い事であるかのように扱う。それが少しおれには分からない。

生命は「これから何かを為すかもしれない」という未来への投資であって、存在してるだけのそのものには何も価値はない。平等に皆1でしかないなら総合すれば0と変わらない。もっというなら命なんてスロットのコインみたいなものだよ。当たるか外れるか、人生というスロット台に投込む最初の一枚だ。その程度の物に過ぎない。

まあ、余り攻撃的な物言いは好まないけれど、強いて言うならどうせ今そうして命の価値を提唱するキミ、キミだって自分の命以外がどれだけ失われようが興味のひとつも示さない程度の人間だろう?そんなキミたちが「人命が云々」「尊い命が云々」とか言ってるの見てるとてんで可笑しくて臍で茶が沸くものでね。


「まあ結論として、ということさ」

「矛盾にも程がある。アンタは最低の人非人だ!」

「だから最初に言ったじゃないか、流してくれとね」


チラシを持って吼える男は肥えていて、チラシに印字された幼児と比べるべくもない裕福な暮らしを想像させる。なんて綺麗な偽善だろうか、アイロニックが効きすぎていて笑ってしまう。


「一応断っておくと、おれは命に価値があるとは思っていないが、それを大切にする気はあるんだぜ」

「やかましい!このヒトデナシが!!さっさとどっか行っちまえ!!」


まあ、おれの言葉なんざハナから届いちゃいないだろう。ああいう手合いは、自分に都合のいい部分を拾って、其処から勝手に妄想を広げる──おれの同類だろうから。

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