改変笠地蔵

仁志隆生

改変笠地蔵

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんとおばあさんは貧乏ではありましたが、とても心優しい夫婦でした。


 ある年の暮れの事です。

 おじいさんとおばあさんはせっせと傘をこしらえていました。

 これを売ってお正月用のお餅でも買おうと思って。

「でもおじいさん、これ売れますかねえ?」

 おばあさんは心配そうにいいました。

「まあ、なんとかなるじゃろ、それじゃあ行ってくるぞい」

 おじいさんはそう言って町へと出かけて行きました。


「え~傘はいらんかね~?」

 おじいさんはそう言いながら町中を歩きまわりましたが、傘は一向に売れませんでした。

 日も暮れてきたのでおじいさんは諦めてとぼとぼと家へと帰って行きました。


 そして帰る途中で雪が降ってきました。

「寒いのう」

 そう言いながら歩いていると途中に六つのお地蔵様がありました。

 これはおじいさんとおばあさんがいつも手を合わせているお地蔵様です。

 見ればお地蔵様の頭や肩に雪が積もって白くなっています。

「おや、難儀なことだ」

 そう言っておじいさんはお地蔵達に積もった雪をはらいました。

「でもこのままじゃまた積もってしまうの。そうじゃ、この傘を」

 おじいさんは売り物の傘をお地蔵様に被せていきました。

 しかし持っていた傘は五つ。

 お地蔵様は六人なのでひとつ足りません。

「こんなのですみませんが、勘弁してくだせえ」

 おじいさんは自分の頭につけていた手ぬぐいを最後のお地蔵様に被せました。

「これで少しは。それじゃあ失礼しますじゃ」

 そう言っておじいさんは家へと帰って行きました。



「……ふん」

 それを岩陰から見ていた一人の男がいました。

「あの爺様、お地蔵様がなんかしてくれるわけでもねえのにご苦労なこったな」

 男は帰っていくおじいさんを見ながら言い、そして

「あんたらも爺様がここまでしてくれたんだから、お伽話みたいに餅やご馳走でも持っていってやったらどうだよ?」

 男はお地蔵様にそう言いました。

 しかし何も返事はありません。

「まあ、喋るわけねえか」

 男はお地蔵様を見て

「初めは傘とかお供え物盗んでいこうかと思ったが、やめとくか。あの爺様に免じてな」

 そう呟きました。

 そして

「手ぬぐいじゃあれだ、俺のを使いな」

 男は自分が被っていた傘を取り、手ぬぐいを被っていたお地蔵様に被せてあげました。

「チッ、盗人の俺が柄にもなく」

 男は傘を被せて手を合わせてからどこかへ去って行きました。




 家に帰ったおじいさん。

 出迎えたおばあさんは濡れて帰ってきたおじいさんを見てびっくりしました。

「おじいさん、どうしたんですか?」

 おじいさんは訳を話しました。

 話し終わるとおじいさんは

「すまんのう」

 と謝りましたがおばあさんは

「謝る事なんかないですよ。おじいさんはとてもいい事をしたんですから」

 そう言いました。

 二人はその後漬物を食べてお湯を飲んで薄い布団に包まって寝ました。



 そして、深夜。

 ドスン!

 外で大きな物音がしました。


「なんじゃいったい?」

 おじいさんとおばあさんが外を見るとそこには、たくさんの食べ物やお正月の飾り物が置かれていました。

「これはいったいどうしたことじゃ?」

「おじいさん、あれを」

 おばあさんが指差した先には、六人のお地蔵様が道を引き返すように進んでいってました。


「おじいさん、お地蔵様が」

「おお……ありがとうございますじゃ」

 おじいさんとおばあさんはお地蔵様に向かって手を合わせました。




「まあ、こうすればあの二人はお地蔵様がくれたもんだと思うだろ」

 そう言ったのはさっきの男でした。

 よく見ると男はお地蔵様達をソリに乗せて引っ張っていました。

「お地蔵様よ、賄賂貯めこんでる悪代官のとこから盗んできたんだもんなんだし爺様と婆様のためだ、勘弁してくれよな」

 あの食べ物などはこの男が盗んできたものでした。

「本当は善人がもっと得するべきだと思うんだがな。なあお地蔵様」


 そして男はお地蔵様が元いた場所まで来て

「これでよしっと」

 お地蔵様を元通りにしました。

「それじゃあな」


「待ちなさい」

「は? 誰だ?」

 男は辺りを見回しましたが誰もいませんでした。

「空耳か?」

「違うわい。儂らじゃ、お前さんの目の前におるじゃろが」

「え?」

 男の目の前にはお地蔵様しかいません。

「もしかして喋ってるの、お地蔵様?」

「そうじゃよ」

「えええ!?」

 男は驚き叫びました。

「すまなんだの、あの爺様に礼をしたくても、儂らじゃ食べ物とかは持って行ってやれんかったもんでの」

「お前さんが代わりにやってくれて助かった、本当にありがとう」

 お地蔵様達が口々に言いました。


 男は驚きのあまり声が出なくなっています。

「そうじゃ、お前さんにも礼をせねば」

 お地蔵様の一人が言いました。

「けど、何もできねえんでしょ?」

 男はお地蔵様に聞きました。

「たしかに金とか物を出すのは無理じゃがの、お前さんが安心して幸せに暮らせる場所を教える事はできるぞ」

「え、本当にそんなところがあるんですかい?」

「ああ、もちろん」

「……うん、どのみちもう盗人稼業はおしまいにするつもりだったしな。よしお地蔵様。その場所教えてくだせえ」

「それはの、あの爺様と婆様が暮らす村じゃ」

「え?」

「あそこならお前さんも安心して暮らせるぞ」

 男は黙ったままでした。

「それとこれはお願いになってしまうがの、あの爺様と婆様にゃ子供がおらんからいろいろ難儀することもあるじゃろう。だから時々世話してやってくれんか?」

「……わかりやした。それじゃあ、ありがとうごぜえやす」

 そう言って男は村へと歩いて行きました。



 そして男はおじいさんとおばあさんがいる村に住み、一生懸命働きました。

 おじいさんとおばあさんもこの男がたいそう気に入ったようで

 いつしか本当の親子のように仲良くなり

 裕福とは言えませんでしたが皆で幸せに暮らしましたとさ。



 おしまい

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改変笠地蔵 仁志隆生 @ryuseienbu

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