怒られるかもしれない話

誘宵

第1話

「こんなことしていいのだろうか……」

 生徒の立ち入りは禁止されている屋上。

 授業中だというのに、こっそりやってきてしまった。

 ちらほらと雲の浮かぶ空に、一筋ひこうき雲が走っている。

 風は冷たい。肌をつーっと撫でていく。

 グラウンドから聞こえてくる声。騒がしい声。怒鳴り声。

 そういった喧騒から切り離された、非日常がこの場に広がっている。

 だから……全裸で立っているのだ。


 屋上で全裸になる。

 全身で風を、日差しを感じる。

 授業中だというのに、こうして、屋上で、全裸になって、両手を広げて仁王立ちしている。

 胸が高鳴ってしまう。興奮しているのが自分でもわかる。

 これ以上のことはしてはいけない。

 してしまったら大変なことになる。

 そう自分に言い聞かせる。両手を広げているのは「これ以上のこと」をしないためなのだから。

 これ以上のことをしてしまったらどうなるのか。

 もう二度と、この場にこれなくなってしまうだろう。

 いや、わからない。

 見られなければ、見つからなければ。

 屋上で「これ以上のこと」をしていると知られなければ。

 まどろっこしい表現を使わずにいうと、オナニーしているとバレなければ。

 露出で興奮した身体を慰めることをしていると、クラスメイトに、他の生徒に、先生に知られなければ、この場でずっと、こんな生活を続けられるのではないだろうか。

 誘惑に負けそうになる。口から洩れる吐息は乱れて、広げていた両手もだんだんとさがってきた。立っているのも大変だから、屋上に座って、脚を開いて、思いっきりかきまわしてしまっても、きっとバレない。知られない。

「もう……我慢したくない……。オナニー……オナニーしたい……けど……」

 理性がこびりついている。

 不安なのだ。やはり、見られるかもしれないという思いが付きまとう。

 どうしても踏み出せないのは、見られる可能性を捨てきれないから。

 ここまでしているのだから、あと一歩だけなのに。

 屋上で全裸になっているようなら、いっそ最後までやってしまえばいいのに。

 どうしても、そんな欲望に従えない。

 従えないまま、硬直した状態で、チャイムが鳴る。

 こんな姿を誰かに見られただろうか。

 振り返っても誰もいない。

 欲求だけをため込んで、股間はじゅんと蜜で潤っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怒られるかもしれない話 誘宵 @13izayoi41

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る