「花の名前。」

星村哲生

「花の名前。」

 でられもせず 踏まれもせず

 健気けなげに小さく咲く花たち

 花の名前を知ることで

 僕らの心も きっとほら美しい



 帰り道 時々やってくる あの黒い気持ち

 今までの ぼんミス空振りが 一度にやってくる感覚

 そんなときは 先生に教えてもらった あの言葉

 一回五分ずつする おまじない



「今まで歩いた道に咲いた 花の名前を数えてみよう

 十 数えられれば 土からだけじゃなく

 あなたの心にも 咲いてくれますよ」



 ひとつ みっつ 数えてみるけど すぐにはできない

 いつつ やっつ もうすぐできる

 気がつくと もうすぐ家の前

 胸の中の 黒い気持ち 消えてる



 今日は たまの休日 本屋さんに寄ってみよう

 何か新刊 出ていないかな

 立ち止まってみる 絵はがきコーナー

 咲きほこっている 季節も場所も

 全部ちがう きれいな花たち



 光の中の 桜のトンネル

 僕らの道を 祝福するよう

 陽だまりの中で舞いおどる 花吹雪 忘れない



 青空の下に広がる ひまわり畑

 なりたい自分に 向き合うように

 「屈せず」 「そむかず」 でも「競うように」

 「はしゃぐように」 咲いている



 子供のころ 父さんから教わった

 小さいけれど 確かなこと

 シロツメクサの名前の意味

 次の瞬間から 目に見えない いろんなものが

 僕の胸に 飛び込んでくるよ



 道ばたにたたずんで秋風にれるあかい房

 気づかれないこともあるけれど

 花でもはなは無いけれど

「ここにいるよ。」と語りかけてくる

 ワレ モ マタ コウ ワレモコウ



 いつか見た大きな池に ひっそりと咲くハスの花

 いだ水面みなもに自分を映して

 黒い泥から浮かぶように

 白く静かに祈るように




 帰り道 足元に 未来あしたにつながる

 おまじない見つけた

 タンポポの綿毛わたげ吹いてみた

 次はどこで咲くんだろう?



 広い野原


 名もなき路地


 風を超えて


 はる彼方かなた


 僕の心へ



 まだ見ぬ未来あした





「無事に咲きますように。」


 


 

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