第四話

 先生はスクリーンをタッチして、様々なファイルを開いていく。生徒たちは、それを黙って見ているだけだった。



 しばらく、と言っても1分ほどだが、先生は一息ついて説明を始めた。



「えー、まず説明するのはこの学校についてだ。まあみんなも知っていることが多いと思う。だけど、よく聞いておいてほしい。この学校は1つの学年に5クラスある。ここは特級クラス。つまり、お前らは難関な試練に受かった1年に1回の魔術・魔法の卵だ。それを自覚しておいてほしい……まあそれはさておき。4大術学を基盤とした術学師になりたいのなら、それなりの志や忍耐力がないといけない。なんにせよ、戦い合うのも術学師だからな。そこで、3年間ペアを組むようにしている。隣の席の人だ。対人戦闘能力の勉強が一番多いからな。ちなみに、魔術師と魔法師のペアになっている」




 なんだか、すごく真面目に話しているなあと他人事に感じていたところ、衝撃の事実が俺の脳に襲いかかってきた。




 先生は今、何と言った? ペアを組むといった。

 先生は何年間ペアを組むといった? 3年という最初から最後まで。

 先生は誰とペアを組むといった? 隣の席の人と。

 では、ここで質問。

 先生はどのような組み合わせになっているといった?


 隣の席の人は、魔術師か、魔法師か。

 では答えを、模範解答を教えよう。

 正解は、こうだ。




「天響は、魔法師か?」

「うん、そうだよ」




 嘘だろ。


 この学校に入学して、初めにできた友達が、俺の大嫌いな魔法師だと!?

 ……この上なく、絶望的なショックを受けた。




「ごめん、天響……俺、もう無理だ」

「えっ、ちょっとどうしたの!?」

「実は、魔法師苦手なんだ……」




 魔法師が苦手。

 そう、重ね重ね嫌なのだ。

 近寄りたくない、関わりたくない。そうずっと思っていた。

 なのに、友達が魔法師だと?



 先生はそんな俺の態度が顔に出ていたのか、こちらを見て苦笑していた。




「あー、まあ不満はあるだろうがよろしく。んで、基本、授業は配布してあるタブレットを使う。必ずポッケに入れとくんだぞ。そして、授業はグループで行う。実技以外の筆記授業、または実技で対人戦闘以外の授業の場合だ。そしてグループは、4人組。今から発表するから、よーく聞け」




 グループ、か。

 そんなのメンバーが誰か分かっている。

 俺は、窓側の前から1番目に座っている。

 そして、後ろはあの超元気そうな快活少女がいる。

 つまり必然的にこいつと同じ。そして隣である天響も。




「えー、次。グループ5。結城京也ゆうききょうや神崎天響かんざきてぃな西尾悠斗にしおゆうと上重杏樹かみしげあんじゅ




 そして、その考えは裏切らなかった。

 ただ、男子が1人いるとは心強い。

 俺は後ろをくるりと振り返り、2人の姿を確認した。



 男子生徒である西尾悠斗は、好青年な印象を与えた。

 割と短髪な黒髪、整った目鼻。くっきりとした顔だちで、肌は運動をしていたのか少し焼けていた。またそんな色もなんだかかっこよく感じる、元気そうなイメージを持った。笑った時に見えた歯も白い。



「お前が結城京也か。俺は西尾悠斗だ。雷の魔術を心得ているぜ」

「私は上重杏樹! 結城京也って言うのかー。あと、神崎天響っていい名前だねぇ……2人とも、宜しくね! あ、あと私は悪の魔法を学んでいるよ」


 悠斗の方は、安心できそうだが……この上重杏樹。見た目に寄らず結構声が幼いように感じた。

 日本人は今、茶髪と黒髪がオーソドックスだが、彼女は茶髪だった。栗色の明るい長い髪の毛を、ポニーテールに結っている。身長も高いし、大人びているように感じたのだが……それに、悪の魔法とは。


 ちなみに、悪とはいえ、悪い魔法ではない。何というか、人を困らせることが

簡単にできるということだ。つまり、雷を落とすことが出来たり、毒を植え付けることだってできる。雷を落とすことは雷の属性を持った魔術師、魔法師にしかできない。毒を植え付けることは土の属性である。彼らにこれらの事は、容易にできる。ここまで聞くと、すごく全属性の魔術や魔法を扱えるという、無敵のように感じるが、そうではない。


 悪の魔法の欠点は、魔術や魔法がそう連続で使えないということだ。

 つまり、体力がすごく必要になるため、長時間の使用はかなりきつい。

 だが、戦闘中は計算してうまく利用することができれば、すごく有利になる。そう言った点で、すごく注目されているとも言えるだろう。個人戦はあまり向いていないが、チーム戦は有利で活躍する立場になるだろう。




「あと、さっきの2人組のペアは寮生活が明日から始めるけど、ルームメイト的なものにもなるから、今のうちに仲良くしておけよー」




 ルームメイト的な、じゃなくてルームメイトだろう。なんだか、すごく大変そうな気がする。気がするだけだといいが。


 ちらりと天響の方を見ると、先ほどより表情が暗い。

 先ほど自分が言った言葉が、不快な影響を与えてしまったのだろうか。だがしかし、魔法師が嫌いだということを伝えておかなければ、いつかこの3年間でばれてしまうかもしれない。


 まだ、許すことはできない。

 親を殺された俺の気持ちは、天響には解らないのだから。




「ま、あとでそういうのはする。とりあえず、入学にあたって必要なものを紹介する。あとは確認しておいてほしいこととかな」



 先生は教卓の一番前の生徒たちと少し談笑していたが、話に区切りがついたのか、質問等もなかったため先に進んだ。




「わからなくなったら、タブレットに術学養成高等学校説明ガイダンスアプリが予めダウンロードされていると思う。それを見て欲しい。で、次は教科書について。

 うちの学校の授業はタブレットで行うから、しっかり必要な教科書をダウンロードしておくんだぞ。ダウンロードは、さっきのアプリから。家に帰ったら即するように。明日から授業が開始される。実技は来週から」





 そう、授業はタブレットのみ。

 先生は、授業というものをしない。

 先生は予め授業を録画しておいて、それを時間にスクリーンに流す。

 それだけだと出席日数や態度が分からないのでは、と疑問を抱く人もいるであろう。だが、問題はない。この教室も含めて、どの教室もカメラがついているかだ。 職員室でいつでも監視されている。




「で、最後に。実技の授業は戦闘服を用いる。

 制服ではなかなか動きずらいし、自分の好きなデザインじゃないしな。うちの学校は、オーダーメードだ。値段はどんなものでも変わりないから、安心しろ。だけど、だからといってゴッテゴテな飾りとかはつけるなよー。自分の成績が危なくなるぞ」 




 戦闘服か。何にしようかと、俺は悩んだ。

 もちろん黒色がいい。

 触り心地が良く、軽量タイプとなると難しいのだろうか。

 まあ、格好悪くなければそれでいいだろう。




「戦闘服かー、どんな風にしよっかなあ。うふふ、楽しみ!」

「燃える様な赤色がいいかなー、それとも可愛いピンクがいいかなー。それともさわやかな水色かなー?」




 女子陣はとても楽しそうだ。

 天響はうしろを向いて杏樹と仲良く談笑している。

 それにしても、杏樹は声が大きい。少し抑えてほしいものだ。

 まあ、そんなにぎやかなことも悪くない。

 俺は、後の説明を適当に聞いていた。

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101番目の魔術師 くれはちづる @tpdjg

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