第三話

 教室に入ると、一気にざわめきが起こった。


 話している内容はそう、今から行われるホームルーム。

 ホームルームという言葉でまとめても良いのか、いやそれ以外に適切なものが見つからない。うーん、入学にあたっての説明と言っておこう。

 担任はすぐ現れた。


 エル先生。

 

 ふわりとした金髪を肩までおろし、まっすぐとした瞳はサファイアブルーの輝きを放っていた。肌は雪のような白さであり、美白と言えるのだろう。キュッと結んだ唇は苺のように赤い。身長もそれなりに高いようで、全体的にスラッとした印象があった。タイトスカートを身に着け、スーツ姿であるからか、大人の女性の気品を感じる。そして、人間離れした雰囲気さえも。



「静かにしなさーい。いいかしら? では、自己紹介しまーす」



 教室が、シンと静まり返る。その反応に担任は満足したのか、うんと頷いた。

 そして、再び話を始める。



「私が、この特級クラスの担任。エルだ。まあよろしく、少年少女諸君。

 まあまあ、そんな緊張しないでくんな。先生は気楽に生きたいからさ。気楽に生きたい往きたい逝きたい……ってね。そんなことはいいとして」


 流暢な日本語。まぁ多少、日本語の意味の偏りがあるが。

 ……なんというかその、個性的な先生だとそう感じた。まあ、嫌いではないタイプ。すごく面白そうな先生だ。


「私はエル。生まれはフランスだけど、育ちは日本だ」


 フランス出身……か。なるほど、育ちが日本ということでこんなにも日本語が話せるのか。だが少し発音に違和感は感じる。片言ではないが、完璧ではなかった。

 クラスが圧巻していることを気にも留めず、彼女は話し続ける。


「私は火の魔術と水の魔術師だ」


 少しだけ、クラスの雰囲気が冷たく感じた。

 それが、火の魔術に対する一般的理解と言えるだろう。


「質問等あったら個人的に。これから一年間君たちを鍛えていきたいと思う。たぶん、甘い指導は待っていない。君たちはそれを十分に理解しておいてくれ」


 いい先生に恵まれたようだ。決して悪そうではない。

 それに……火の魔術師とは。同じ魔術を志す者、属性にする者として、なんだか気になる。あと、なぜ火の魔術と相性の悪い水の魔術を属性としたのかがすごく気になってしまう。いつか訊いてみよう。



「んじゃ、今から入学にあたっての説明をする。電子パネルを使うから、

前を向いていてなー。寝るんじゃないぞー」



 そう窘め、先生は収納されているスクリーンを表示した。




 先生が電子パネル型スクリーンを使用して、入学にあたっての説明をしようとしている時に、教室の自動ドアの開閉音が響いた。


 自動ドアはもちろん、少々の機械音しかしないため、今のような静かな雰囲気でなければ音は聞こえなかったはずだ。

 遅刻どころではない、大遅刻だ。そう言いたくなるのは誰もがそうだろう。遅刻者など罰則が与えられ、場合によっては退学か停学にもなり得る。

 だが、彼女だけは違った。


「おー、よー来たなぁ。遅いけど、まあ良いわ。さ、説明するから席つきなさーい。生徒の自己紹介はあとでやるからねー」


 教師なのに怒らないのか、注意もしないのか、と少し驚愕した。

 この先生と生徒の間には何か関係があるのかもしれない。

 それにしても、ずいぶん軽いな。周囲を驚きの視線を彼女に向けた。


 彼女の姿を確認する。

 身長は少し高い。全体的にほっそりとした、スマートな体型。だが、女性らしいラインはきちんと標準以上だ。

 目はすごくぱっちりとしていて、その目が快活さを与えた。

 髪型はショートカットが似合いそうだが、少し違う。

 ミディアムロングと言うのだろうか。横髪を垂らし、肩より少し下の長さの髪の長さであった。遅刻なのに堂々としていて、どことなく先生に似ていた。

 また、声は凛とした声だと思う。よく通った、少し大きめの声で、ハキハキしている。

 そして、彼女が席に着いた、その席とは。


「お、君が私のご近所さんかい?」

「あ、ああ。鈴木 京也だ。よろしく」

「じゃあ京也君、これからよろしく!」


 ……空席だった、後ろの席だった。

 それに何か話しかけられたぞ。急に下の名前で呼ばれることになってしまった。

 何だろう、ここの学校の女生徒は皆フレンドリーだな。


「はーい、では説明をするぞ。よーく聞け」


 俺はとりあえず、席に着いた彼女が少し気にもなったが、切り替えて先生の話に耳を傾けた。

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