第二話


 着席予定時間の五分前には、大体の人は席についていた。

 辺りをぐるりと見回すと、仲良く談笑している生徒もいれば、緊張した表情で座っている生徒も多々いる。

 そして気づいたこと。

 普通もう席についているはずなのだが、ついていない生徒席が一つあった。

 自分の後ろの席である。

 大して気にはならなかったが、たいていこの学校に入学する人は緊張している人が多く、予定時間より余裕を持ってくる人が大半だと思っていたが……やはり決めつけることよくないだろう。

 だがしかし、五分前を切っているのに来ないのは不思議に感じられた。

 欠席なのかもしれない。

 普通は気にも留めないが、後ろの席ということで少し気になった。


 まあ、気にしないでおこう。

 そう考え、俺はある人の存在を確認した。



「あ、来ていたのか。久しぶりだな、春」

「京也君、おはよう! いい朝だねー」



 廊下側の席。前から4番目の席に、彼女は座っていた。

 俺の姿を見つけて、少し話したいと思ったのか、席を立つ。

 


「同じクラスだったんだねー。なんか嬉しいな。これからも、宜しくね!」

「おう。ところで、今日はその髪型なんだな」



 春のいつもと違った髪形を見て、指摘する。

 通常は長い髪をポニーテールに結っているのだが、今日は違う。

 そのサラサラな桃色の髪を、惜しげもなく空気に晒している。腰辺りまである長い髪を結っていない。ストレートロング、と言うのだろう。よく分からないが。

 その髪の右サイドには、綺麗な紫色の花髪飾りが添えられている。すごくアクセントとなって綺麗だ。



「あ、えーっと……気づいてくれたんだ」

「ああ。当たり前だよ。その髪型のほうが、似合っている」

「ありがとう。あ、もうそろそろ座らないと! じゃあまたね」

「またな」



 時計電子パネルは、俺達が3分話していたことを告げた。

 席に座る。

 鈴木 春は、俺の幼馴染だ。

 女子力というものが高い、のだと思う。俺によくお菓子とか作ってくれていたし、春の家に尋ねたときには部屋はきっちりと整理整頓されており、部屋も女の子らしいパステルカラーとぬいぐるみに包まれていた。



 春は、唯一信頼している。

 きっとそれは俺と春との共通点があるからなのかもしれない。

 

 春と直接話したのはいつぶりだっただろう。

 3年前から連絡のみの関係だったので、久しぶりにゆっくり話したいことが多い。

 それにしても春も大人になったものである。

 髪を結っていなかったからか、雰囲気が大人に感じた。


  この養成学校は、規則が甘い。

 なんせ、実力さえあればいい。規則は最低限の事を守ればいい、そういうことだ。なんてフリーダムなんだ、と今更ながら思う。

 そのため、春はせっかくだからと髪をおろしたのかも知れない。

 よく見れば女生徒できっちりと髪を結んでいる人は、さほどいなかった。



「もう入学式かぁー」



 隣で書籍を読み終えて、うーんと背伸びを彼女はした。

 天響は緊張を感じさせない、あっけらかんとした笑みで言った。



「そうだな。緊張はしてないのか?」

「うん、まあね。この学校はお兄ちゃんも通っていたから、よく話は聞いてきたんだよね。あんまり緊張しなくていいぞー、って言っていたからさ。試験も終わったし、気楽にーってね!」

「そ、そうか」



 本当に、彼女は緊張していないようだ。ニコニコした笑顔が本当に印象的である。話し方といい、身なりといい、どこか上品さも兼ね備えている。


 そして、移動時間を知らせるチャイムが鳴った。

 生徒たちが一気に立ち上がり、それぞれ講堂へ向かう。

 そして、俺も早速向かおうとすると呼び止められた。



「京也、一緒に行きましょう!」

「京也くーん! 一緒行こう」



 ほぼ同時に天響と春が声をかけてきたのだ。

 それに驚いたのは俺だけではなかったよう。二人も、相手の顔を見合わせ、疑問に思っているような表情を浮かべた。

 


「こっちが幼馴染の鈴木 春。そして、俺の友達の神崎 天響。まあ、お互い仲良く……して欲しい」

「ああ、なんだ。てっきり彼女さんと思ったよー。幼馴染の鈴木 春です! よろしくお願いします」

「私も彼女さんかと。友達……になったばかりの神崎 天響です。こちらこそ」



 二人が考えていることが同じで苦笑した。

 なぜ、お互い彼女と思っていたのかと疑問が浮上したが、まあ仲良くしてくれるみたいだしいいか。


「三人で行こう。いいよな?」

「うん!」

「ええ、もちろん」



 そして俺らは、仲良く(?)講堂へと向かった。







「えー、新入生点呼を始める」

 先ほど話を終えたおじさんの教頭のしわがれた声と違い、耳を通り抜けるような聞いていて、心地よい通った声が体育館に響いた。

「一組。一番」

「はいっ」



 出席番号順に生徒の名前が点呼されていく。最初は女子生徒から呼ばれて、その次に男子生徒のようだ。

 少し暇があり、ボーッとする。



「十二番、神崎 天響!」

「はいっ!」



 元気のいい返事だな、と感心する。



「男子二十番。京也!」

「はい!」

「以上四十名、着席」



 声の音量的には、まあまあだったかなと思う。

 一年生は一クラス二列に並んでいる。ちなみに、出席番号順に呼ばれているが、席は決まっていない。なんてフリーダムなんだ、と感じたがまあいいだろう。


 天響はちらりとこちらを見て、クスッと小さくほほ笑んだ。

 その姿を見て、なんだか俺も頬が緩んだ。



 

 長い長い入学式は、ここからがスタートと言ったところだろう。

 長いので、多少寝てもばれないだろう……

 と、うとうとし始めたのは校長の無駄話。


 俺は、辺りを見回した。

 一年生全員が丁寧に座っているため、なんだか気持ちが悪い。

 それに女子男子でまとまっているため、余計に統一感がある。


 この養成学校の制服は、男子が黒色、女子が白色という特徴がある。

 男子は白いカッターシャツを下に着用し、その上から白い紋章やデザインのラインが入ったブレザーを纏う。下のスラックスは白色である。


 女子は白いカッターシャツを着用し、その下に黒いスカートを着用する。

 先ほど説明したように、この学校は規則が緩い。

 そのため、スカートの長さは極端に短くてもいいらしい。

 男子はブレザーを纏うが、女子は白か黒の短いジャケットタイプのブレザーを纏う。ちなみに、デザインは男女共通。

 黒と白で統一されたこの生徒集団は、かなり目にいいものとは言えないだろう。


 そうやって一人でいろいろ考えていると、なぜかあっという間に入学式が終了しようとしていた。終了時間まで、残り約5分。

 ここで、担任の先生発表が行われるようだ。



「一組。魔術・魔法特級クラス担任、エル。

 二組。技術・科学特級クラス担任、篠原 杏。

 三組。魔術・魔法普通クラス担任、古閑 翠。

 四組。技術・科学普通クラス担任、立花 梨花。

 五組。総合クラス担任、柏原 芽衣」



 一組の担任は、きっと外国人なのだろう。

 目は深い青色で、髪の毛は艶のある金髪だった。またあとでホームルームがあるだろうから、きっとそのときに先生については分かるはずだ。



 あとは、特に何も変わらないかった。

 まあ、この学校の担任については興味があまりないのが、事実だ。

 理由は、担任は朝と下校時にしか会わないと言っても過言ではないからだ。中学校より接する機会というのは少ないだろう。先生が廊下で歩いていることもないし、授業もないし、給食なんてものはないから、一緒に食べることもない。先生たちは、職員室からほぼ一歩もでないのだ。



 この学校の授業を先生の代わりに誰がするのかというと、グループやペアでするのが主流らしい。

 教科書はタブレット。先生が教卓に立って授業、ということは滅多にない。講話は別かもしれないが。

 教室にある(普通は収納してあるが)スクリーンで先生が録画しておいた動画を、 授業時に再生するという簡素な授業だ。

 まあ、説明するより授業を見た方が早いか。



「これで入学式を終了致します。全員起立、礼!」



 入学式が終わったため、少し俺の方の力も抜けた。

 今日の一大イベントは終了した。



 

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