第一章  入学編

第一話 

 国立術学師養成高等学校。


 四月七日の今日、めでたいと祝うべき入学許可を得て、俺はこの学校に無事入学した。



「と言っても、そんなに祝うほどの事ではないけどな……」



 捻くれている、マイナス思考という類のセリフではない。自分の目標はまだここじゃないということだ。術学師を目指す者、これはただの登竜門である。


 

 術学というのは、技術で始まり、魔法で終わる

 その中の1つ、技術は人間が発達する前から使われている歴史的な術学。原始的な方法で物事をなす技術師が存在する。まぁ、今はもうめっきりいなくなったが。


 次に科学。技術を応用した術学で、理系が得意な人間が学ぶことが多い。だが、科学師の数も決して多いわけではないのだ。なので、基本的には、技術と科学はまとめられる。


 そして魔術師。火、風、水、土、光、闇の六つの属性からなる術学。

 ちなみに俺は火の魔術師を目指している。……とある理由で火の魔術は忌み嫌われているが特に(魔法師から)。

 魔術は場合にあったものではないと働かない。例えば、雨が降っている場所では火が起こせないように。学校の実技などは例外だが。


 最後に魔法師。一昨年に研究が発表された、今流行の術学。

 魔術師から魔法師に転職する人も多い。実際、そうした知人も多々いた。

 俺はとある理由で魔法師が苦手だ。というか、はっきり言うと嫌いだ。大っ嫌いである。だが、この学校に入学した以上、その存在は魔術師を上回ることを忘れてはいけない。

 だから、あまり関わりたくないと思った。ちなみに、魔術と魔法はあまり変わりがない。

 六つの属性は魔術とそのまま変わらない。だが、どんな場所でもどんな魔法を発動できるという良点が発見された。しかし、メリットにはデメリットが必要不可欠である。デメリットは、魔術より威力が劣ることだ。




 とりあえず、校門をくぐりぬけて進むと、右側左側に大きな桜の木が立ちそびえていた。この桜も人工的な桜だろうけど。

 桜の並木道、ともいえる道を歩く。俺が朝早く来てしまったのが原因なのか、人が少ない。入学生はいないのではないだろうか。ちょうど目の前を談笑しながら歩いている生徒たちに、目線を少し集中させると、その人のデータが表示される。

 2年生の女生徒と、3年生の女生徒だ。名前は一応伏せておく。


 そして少し進んでいくと、広々とした校舎が立っていた。普通の高等学校と比べ物にならないくらい施設が充実している、寮制度の学校。

 進んでいくと、靴箱入り口に電子タッチパネル形式の掲示板があった。


 そこの一学年用掲示板画面に触れる。すると、黒々としていた画面がパッと明るくなった。その掲示板ページには、『Welcome to our school!』と見出しに書いていて、クラスの名簿が表示されていた。

 俺は一年一組であった。



「確か一年一組って特級クラスじゃなかったか?」



 ふと思い出し、学校案内データを開く。データは学校から配布されたタブレット端末にすべて記されている。教科書などもここに保存されているのだ。新しい教科書もダウンロードすればすぐ使うことができる代物。


 一組は魔術・魔法特級クラスで、二組が技術・科学特級クラス。三組が魔術・魔法普通クラスで、四組は技術・科学普通クラス。ちなみに、五組は四つの術学をすべて学ぶ、総合クラスである。また、クラス人数はばらつきが生じる。


 自分が特級クラスに入学できたことに、驚きを覚える。

 それをもう一度確認して、端末を制服内のポケットにしまった。





 教室の自動ドアを通過すると、そこには先客がいた。



「うわああああっ!!? ビックリした……」



 その少女は席に腰かけて、端末で電子書籍を読んでいたよう。一人で何か呟いていた。多分、熱心な読書愛好家なのだろう。最近は滅多にいなくなったが。


 綺麗な薄茶色の透き通るような長い髪の毛を、ハーフアップに結っている。戸惑いがちな大きな瞳が、俺を見据えていた。卵型の綺麗な肌、輪郭、キュッとした桃色の唇、あきらかに顔だちが整っていた。それに少しだけ興奮を覚えた。いかん、けしからん、だがしかし健全な男子高校生だから仕方ないだろう……


 俺が誰もいないと決めつけてしまったのが悪いのだが……少し困らせてしまったかもしれない。目の前の少女は、申し訳なさそうにうつむいていた。

 とりあえず、この少女に謝ろう。



「すみませんでした」

「えっ? あ、ああ……うん。私こそ変な声だしてごめんなさい」



 彼女の言う変な声は、「うわああああっ!!?」と驚いていたことだろう。

 まあ、あんまり気にしていないが。

 とりあえず、俺の席を探す。空中に指で十字を切ると、マイページが表示された。席をページで確認する。ここか、と顔を見上げた。すると、その少女の隣だということが分かる。

 これも何かの奇跡か、それとも必然か。と考えて頭を振る。そんなのはどうでもいいことだ。

 俺は指定された席に着いた。



「隣の席なんですね」

「え、ああ。はい。ところで、何を読まれているのですか?」

「これですか? ある魔術師の書いた自伝です。とても面白いですよ」



 少女はとても楽しそうに笑顔でそう言った。

 彼女にバレないように、そっと視線を集中させる。

 その対象物に視線を向け、数秒集中させることで情報を読み取ることが出来るという能力は、とても便利だ。

 情報はデータウインドウに自動的に表示される。データウインドウはその基礎情報を読み取ることが出来る。例えば名前、性別、好きなもの、嫌いなもの、何でもとは言わないが、この学校では公開プロフィールを見ることが出来る。


 彼女の名前は、神崎天響てぃなというらしい。もちろん性別は女性。

 そして、気になる情報。魔術師か魔法師か。スクロールして見ていくと、



「ところで、」


 

 少し気まずい重苦しい雰囲気を消してくれたのは、彼女だった。



「隣の席でしかも同じクラス。これを縁に、友達になりましょう!」

「わかりました」



 俺はマイページを表示して、フレンド登録ボタンをタップ。

 昔でいうメルアド交換というやつと似ている。ちなみにメルアドという言葉は死語である。

 一般的な友達になろう、というのはフレンド登録を済ませることだ。

 自分のIDを相手と交換して、フレンド登録を完了する。

 フレンド登録すれば、通話もチャットも現在地も把握できるのだ。それに、情報公開されているものも気軽に見ることができるという便利さ。



「これでいいですね」

「うん。っていうかその敬語! なんか堅苦しいというか……」



 彼女は俺の敬語に不満を抱いているようだ。

 そういう貴方もさっきまで敬語だっただろう、というツッコミは決して言わないでおこう。



「じゃあタメ口?」

「うん。あと呼び名で呼び合おうよ。私の事は天響でいいからさ。じゃあ君の事は……京也って呼んでいいのかな?」

「うん、別にかまわないよ」

「じゃあそれで! よろしくね、結城京也くん」



 彼女は実にフレンドリーな人だ。嫌いではないが、俺はあまり人と関わることが

好きではない。まあ、一人二人いたところで変わらないし、気にはならないが。

 仲間が数人いる方が、生活的に困ることもないだろう。そう判断して、自分を鎮めた。



 そうこうしているうちに、窓の外から人々の声が聞こえてきた。

 ずいぶんと人が増えたものだ。入学式までのころ三十分を切ったとなると、それはおかしいことではないのかもしれない。

 俺はおとなしく黙っておいた。

 天響は少し先ほどよりもニコニコした表情で、ずっと小説を読んでいた。

 

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