第1話
山奥に廃れた村が有った。
そんな村の端にある年月を感じさせる家に年老いた老婆と幼い少女がいた。
日が高く登っている。
少女は家の中にある、荒れた庭の池の近くで、お気に入りの黒い晴れ着に包まれて赤いボールを蹴って遊んでいる。
「君とのわんないと、らぶ〜」
上機嫌に歌を歌いながらボールを蹴ろうとすると勝手にボールが少女の足を避ける。
「あっ!」
ボールは彼女の足を避けるとクルリと回りながら小さな角と小振りな体が現れた。下半身には小さな体には大きな綱を巻いている。
「おい!クソガキ!いつからそんなはしたない歌、歌うようになったんだ!?」
赤い小さな鬼は大きな目を釣り上げ、少女を睨む。
「うっ、しぶやーと言うところで聞いたんですよ。最近の子はこうゆう曲を聴くんですよ!なのでチコちゃんが今時の歌を歌う事は正しいのですよ」
少女も悪いことをした様な罰の悪そうな顔をして目線を斜めに流す。
「ガキには速いんだよ!いろは唄でも歌ってろ!」
少女は少女の膝にも及ばない大きさの小さな赤い鬼に子供扱いされムッとする。
「ちこちゃんは、子供じゃないのです!日本国憲法とやらには20歳以上は成人です!なので、ちこちゃんは大人なのです!」
「うるせぇ!人間じゃねぇんだから無効に決まってんだろうが!」
イラついたのか赤い鬼は小さな体で少女の足を蹴る。
「あっ!痛いです!!酷いです!そんな酷いことばっかりするから大きくならないのですよ!
いい事ばかりするちこちゃんを見習うべきです!」
「お前もずっとチビのままだけどな」
「…」
少女は頬を風船みたいにしながら廃れた家の縁側に座る。そんな少女の隣に小さな赤い鬼も座って切り出す。
「おい、西に入る奴がまた消えたとよ」
「…最近は特に多いですね…」
少女は俯いてボソリと言う。
「ちこちゃん達はもう必要ないのですかね…」
小さな赤い鬼はそんな少女をチラりと見て「少なくともお前は行き場が有るの思うぜ、探せばな」
「でも、ちこちゃん此処から離れたく無いのです。
「ちこちゃんの居場所はここなのです。」
「寂れた誰も住んでねぇ家がか?」
「…それでもちこちゃんのお家なのです。」
小さな赤い鬼ははぁとため息を吐いた後「へいへい、分かりましたよ」呆れた顔で見つめた。見つめられた少女は俯いていた顔を上げてる。
「そうです。ちこちゃんが論破したのです。」
「してねぇよ」
少女は思い出したように言う。
「そういえば、今夜は月光祭りです!」
月光祭りとは満月の日に全国の妖怪たちが集まり、今後を議論する集まりである。
200年前はもっと集まる頻度が少なかったのだが、いかせん最近はどの妖怪も基本暇なので必然的に集まる頻度が高くなったのである。
「そうだな、今夜も進展ねぇと思うけどな」
「どうしてそんな消極的な事ばかり言うのですか?このまま現状維持ですか?保守ぶってないで攻めるべきなのです!」
「んだぁ!?ガキが生意気言ってんじゃねぇ!!」
小赤鬼は少女の背を登り頭を叩く
「痛いです!痛いです!」
少女は叩かれて涙目になり、突然ハッとする。
「これが…これが家庭内暴力ですか!?domestic violenceですか!?
DVなのですか!?」
「うるせぇ!」
「あいたぁ!!」
そんな彼等の騒々しい声を聞いたものは居なかった。
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アレから、あの世話焼きで意地悪な赤鬼は用事が有るとかで、何処かに行ってしまった。
ちこは一人になるとどうしても考えてしまう事がある。
それは、この村から人がどんどんと居なくなっていったことである。
しかし、今だに人が都会のビルディングや夜のネオンに惹かれ流れていく中でもただ一人ちこの暮らしている家の老婆だけが村に残っている。
少女は空を見上げて、あの老婆が無くなったら本当の意味で自分の存在する意義が無くなるのではないかと怖くなった。
少女は見た目は幼い子供でも、古くから生き続ける妖怪である。
時には人間に悪戯をし、時には人間に些細な幸運を運んできた。
見た目通り幼い考えは幼く我儘で有るが、其れでも少女は妖怪で人間には考えることが出来ないほど移り変わる時代を、去っていく物事を見てきた。
だから思う。
人から必要とされなくなった物が消えていくのは必然的であると。
あの老婆が黄泉の国に旅立った瞬間が自分の存在意義が無くなる瞬間であると。
そんな暗い思考から現実に戻る。
あぁ、しぶやーで最近流行っているらしいぽっぷなこーんを買ってくれば良かったな、なんてね
闇夜の妖精達 シンガポールのメイド @107
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