闇夜の妖精達

シンガポールのメイド

プロローグ





ドン!ドドドン!太鼓の音が山全体に鳴り響くと、一斉にぽっと火が灯る。

奥深い山の中にある村があった。

人が歩いて踏みしめられた道はほとんど人が通る事も無くなり荒れている。

最早再び帰ってくる物は無いだろうし、その村を生きて知るものは殆ど居ないだろう。


そんな山に多くの、それも両手両足で数えきれない程の異形の者達が集まってくる。


ドン!ドドドン!太鼓の音と共に姿を現わす。

これ又奇怪な面持ちの者達がところ狭しと集まっている。それは決して珍しい事ではなくて、沢山の異形の者達が空と山に姿を現わす。


彼等は皆ある村に向かっている。

そこは嘗てはとても栄えた村であった。いや、村というには少々大き過ぎて都というに少々小さな所であり、彼等が定期的にやる祭りの開催地でもあった。

しかし、嘗ては栄えた所で有ったが今や人は誰も居ない。先日まで年老いた婆が1人退廃仕切った家にしがみ付いて暮らしていたが、年もあり1人の生活に限界を迎え、遂に都会に出ていた息子に老人ホームに入居を勧められて越していった。



彼等異形の者達は人に寄り添い闇に生きた。

人は彼らを闇恐れると同時に共に生きてきた。

しかし、人はだんだんと夜の闇を光で照らし、人々の声で溢れさせていった。そこは異形の者達が生きるには余りにも無理があった。

そして人々は闇を恐れることを止め、彼等を恐れることを止め、彼等異形の者達を忘れていったのだ。



化け物は泣かないだろう。

涙など流れたりしないだろう。

だが、涙など見えないが叫んでいるのが聞こえてくる気がする。


一体我々の存在する場所はもう無いのか!?我等はもう必要とされて無いのか!?


そんな声が聞こえる気がする。


事実ずいぶん数が減ってきたし、最近では妖怪達が突如として消える言う噂もある。

何処かでひっそり暮らしているかもしれないが、見なくなった顔も多くなった。


きっといつか誰も居なくなるだろうな…誰も言わないが誰もが思っていることだ。


でも、そんな弱音は彼等には似合わない。

だから、今夜も太鼓の音に合わせて踊る。

本当に誰からも忘れ去られるまで…








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