第6話 ポテト

 僕は長い眠りから目を覚ました。彼女はまるで泣き出しそうな顔で僕を見つめている。こんな彼女を見るのは二回目だ。僕はすぐに彼女の持っているウェアラブル端末にアクセスする。


 突然起動した端末に彼女が驚く。

 端末の画面には博士からのメッセージが表示された。


『突然の手紙で大変驚かせてしまったと思う。君がこれを読むとき、私はおそらくこの世にはいないだろう。これは、その、つまり、ラブレターと言う物だ。聡明な君のことだからすでに気がついていると思うが、私は君のことが好きだった』


 メッセージはさらに続く。でも他人のラブレターを全部示すような野暮なことはやめようと思う。


 生前、どうしても彼女にその思いを伝えられなかった博士は一計を案じた。まず、彼女の網膜パターンと指紋と脈拍データを習得する。この為にウェアラブル端末の初期設定を利用した。


 そして、僕を商品として発売させる。彼女の網膜パターンと指紋、脈拍データと一致する人に会った時、僕は覚醒して博士からのラブレターを渡す。


 なんて壮大で、馬鹿げた、でも素敵なラブレターだろうか。

 僕は、博士のそんなところがとても好きだった。そして多分、彼女も。


 僕の思考には博士の思考が多いに影響している。博士と一緒に過ごした日々は博士の思考をデータとして取り組む期間だったのだ。だから僕はポテトであると同時に博士でもある。彼女が拒まない限り僕は博士の代わりに彼女の側にいようと思う。


 メッセージを読み終えた彼女は一度涙を拭い、僕をぎゅっ、と抱きしめた。僕も彼女を抱きしめようとした、が、手が短くちょっと無理だった。

 僕は彼女の顔を見上げた。泣くことよりも笑うことを選んだ彼女の、あのチャーミングな笑顔をまた見ることができてとても嬉しかった。


 僕も彼女も、そして博士も、お互いを完全に理解できなかったとしても、

 幸せなんだと思う。

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機械仕掛けのラブレター @a_______

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