第5話 火葬場にて

「よう、久しぶりだな、社長殿」

「ああ、二年ぶりか、教授殿」

「調子いいみたいだな、お前の会社」

「お前だって、この間随分と権威のある賞を取ったじゃないか」

「俺だけの研究成果じゃないさ。博士の遺産だよ」

「うちの会社だって、好調なのは博士の研究成果のおかげさ」

「すごい人だったな」

「ああ」


 喪服を着た二人の男は、火葬場の端で立ち話をしていた。


「あれだけの才能と同じ時代にいられたんだから、俺達は運がいい」

「かもな。でも、女に対してはいまいちだったな」


 そういって男はあごで火葬場の入り口付近を指す。そこには長い髪を後ろで束ねた喪服姿の女性が立っていた。彼女のチャーミングな笑顔を二人の男は思い出した。


「博士は意外と奥手だったからな」

「ああ、そういうところは子供っぽいところがあったな」

「さて、火葬も終わったようだ。収骨があるが、帰るとするか」

「そうだな、我々が憧れたのは博士の頭の中身であって骨じゃないからな」


 二人の男は火葬場から出て車に乗った。男の一人が自動運転システムに行く先を指示する。


「一つ頼みがあるんだが」

 あらたまって男が切り出す。

「なんだい社長殿?」

 おどけてもう一人の男は返答する。

「おいおい、まじめに聞いてくれ」そこで男は軽く咳払いをした。「実は博士の手つかずの遺産が一つあるんだ。」


「何?!」男は身を乗り出す。「そうか、ポテトか」

「そうだ。博士が亡くなる直前、軍のセキュリティーを避けて俺のところにデータが送られてきた。ポテトを製品化しようと思う」

「博士の最後の遺産か。弟子としては捨て置けない。俺は何をやればいい?」

「博士が送ってくれたデータで理論は完成している。後は実用化に向けて、レスポンスをさらに速くする必要がある。ハード面は俺がやるからソフト面を頼む」


 二年後、大手家電メーカから家庭用ペットロボットが発売された。


 非常に愛らしい姿をしていて、その見た目だけで世間の注目を集めた。しかし、最も注目すべきは完全に自我を持つという点だった。すなわち、このペットロボットには、心、がプログラミングされているのだ。


 心を構築する、それが天城博士の最後の研究であった。


 ペットロボットは発売とともに爆発的な売れ行きを見せ、全世界に広まった。


 海外にいた塚本結月は世間の流行の例に漏れずペットロボットを買った。彼女にとってそれは流行の品物以上の意味があった。


 ペットロボットが家に来た日、4歳になる息子は大喜びで寝るまでペットロボットを離さなかった。


 息子が寝入り、やっと結月がペットロボットに触れる機会がやってきた。


 結月がリビングで寝ているペットロボットを抱き上げた。ペットロボットはその振動で目を覚まし、近くにいる人間、すなわち結月を確認した。

 ペットロボットは結月の網膜パターン、脈拍、指紋を習得し、それをデータベースと照合する。


 そして一致を確認した。

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