第11話
ターニャは魔導刃を剣に宿して一閃した。
「ふむ、銃剣やスコップとは趣が違うが、これも悪くないな」
賊から奪ったものにしては鋼の鍛えは良好で、魔導刃を形成すれば文字通り魔剣のごとき切れ味を誇ってくれる。
もともとが軽戦車の装甲並みの強度をもつ魔導士の防殻すらを切り裂きうる白兵戦闘用の術式である。精々皮鎧や胴当てを装備しただけの盗賊など、文字通りバターか豆腐のように撫で斬りである。
一方の相手の攻撃は弓矢や剣といった古典的な代物。中核防御の防殻どころかその外側をカバーする防護膜ですら、過剰防御なほど。
そして航空魔導師の機動力は、地上にあっても馬如きに遅れをとるはずもなく。
つまり、適当に突っ込んで、切るなり体当たりするだけの簡単なお仕事。
「しかし、あまりに簡単だと学びがない。これはこれで面白い体験ではあるのだから」
スコップを持って敵兵に突撃し、一撃して離脱。それを剣に持ち帰るだけなら、話は単純かつ明瞭、ターニャ好みの見通しの良さである。
しかし、と
ターニャは片翼の出力を少しあげて、駒のように回転して、遠心力で振り回した剣の軌道に賊を巻き込んでミンチにする。
過剰出力、過剰攻撃、完全なるオーバーキル。大は小をかねるというが、これは過大に過ぎる。
「改良の余地あり、か」
ターニャは手元の剣を見つめる。
塹壕の友たるスコップとは違って、剣というのは敵を斬るという確固たる意志に基づいて鍛えられている。機能美とは良いものだ。
刃に展開している魔導刃を、さらに延伸。
細く、長く、鋭く。
しなる鞭のようにそれを振り抜くと、逃げようとしていた数人が、まとめてボロ雑巾のように千切れる。
今の一撃は、なかなか効率的で悪くない。
航空魔導師としての正規戦の戦い方と、地上戦力としての不正規戦の戦い方には当然差がある。今は一方的にこちらのやり方を叩きつける形でも良いが、より複雑な任務、例えば市街戦などを想定するのであればより効率的な戦術規範の試行錯誤は取り組んで置いて損はあるまい。
衝突相手は正規軍ですらない犯罪者の集団。よって交戦規定もなければ、繰り返した残虐行為のせいで周辺住人からは蛇蝎のごとく嫌われ、情状酌量の余地もない。
とはいえ、皆殺しにしては情報も聞き出せない。適当に情報を持っていそうな輩は殺さず転がしておく。
「ふむ、だいたい終わりか」
死屍累々、屍山血河が、昼下がりの街道の脇道に出現していた。
この虐殺を震えながら見ている者たちがいた。
偽装商人として実際に商品を荷馬車に積んで被害の頻発地域を動き回っていた、釣りの釣り餌役。諜報員の卵たちである。
「ひえー、ヤバイヤバイ」
「ドラゴンライダーでもないのに飛ぶし、全身鎧でもないのに弓矢も魔道士の火球も効かないし...」
「最後、剣からなんか出してませんでした?魔法剣士?」
「見た目、ただの女の子なのに、笑いながら匪賊数十人、あっという間に蹴散らした...」
その惨劇をもたらした恐るべき彼らの上官が、ニコニコしながら上機嫌でやってきた。偽装のために、商人の娘に扮したターニャの年齢相応に可愛らしいその服には、返り血の一滴も付いてはいない。剣を片手に持っていなければ、今でも年相応な町娘そのものだ。
「さて、諸君」
「「サー、イエス、サー」」
一斉に新兵たちが応える。侮る事などなど出来はしない。戦力的に、権限的にも自分たちを背後の死体の山に加えることの出来る怪物だ。
「餌役ご苦労。諸君らの努力によって、無事襲撃を受けて逆襲を果たすことができた」
「「はっ、ありがとうございますっ」」
「さて、せっかくの教材だ。二班に別れる。一班は、敵の死体を一箇所にまとめろ。有用なものは馬車に積み込め。死体は焼く。もう一班は、生き残りの尋問だ。連中の拠点、仲間、全て吐かせろ。グズグズはするな。日が暮れる前に片付けるぞ」
「「はっ」」
新人たちの戦いは始まったばかりである。
幼女召喚 @zig
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