第4話 神と名前

 そう言われて俺はようやく鳴海を背負い、保健室へと向かった。案の定保健室の先生には怪しまれたが何とか誤魔化し、そそくさと保健室を後にする。鳴海はただ気を失っただけですぐ目を覚ますだろうということだ。これで一安心である。


「そういや名前ってあるのか?」


 俺はいつのまにか透明状態ではなくなっている幼女に質問する。


「あるよ。聞きたい?」


「お前ってちょくちょくうざいよな。」


「失礼な。そんなこと言うならもう名前言わないよ?」


「じゃあもういいや。そんなに聞きたい訳でもないし。」


「えっ?」


 本気でショックを受けていた。てか今にも泣き出しそうだった。


「ごめん。俺が悪かった。名前聞きたいなー」


 自分でも驚くほどの棒読みだったと思うのだが、それで十分だったらしい。聞きたい?聞きたい?とうざいキャラに戻っていた。


「そこまで言うならしょうがないなぁ。教えてあげよう。」


「キャラがうぜぇ。早く言えよ。」


「分かったよ。そんなに知りたいんだね。じゃあ教えてあげよう。むすびだよ。」


 結…?俺の知り合いにそんな珍しい読み方をする名前の人間はいないはずだ。しかし、その名前にどこか引っかかっている自分がいる。何かを知っているはずなのに肝心なことが思い出せない。まるで何かで蓋をされているようだ。


「どうかした?」


 これ以上考えても仕方ないか。思い出せないものは思い出せない。


「いや、何でもない。へー結か。珍しい名前だな。」


「神様だからねー」


 それが理由になっているのかは怪しい気もするが突っ込むのも面倒臭いのでそういうことにしておこう。


「俺帰るけどお前はこれからどうするんだ?まだスカウト活動するのか?」


「もう今日はしないかな。また人殴っちゃいそうだし。そう言えば君の名前まだ聞いてなかったね。名前は?」


「俺か?俺は目白栄。」


「君も十分珍しい名前じゃん。」


「そうかもな。なかなか覚えてもらえないことも多いし。」


「私はもう覚えたから大丈夫だよ!」


「それは嬉しいけど多分もう会うことなさそうだしあんまり意味ないかもな。」


「私と会えなくて寂しい?」


「遠距離の彼女みたいなことを言うな。」


「君が私と一緒に働けば寂しい思いをしなくて済むよ。」


「何で寂しい前提なんだよ。だいたい嫌だよ。学校あるし。」


「結構センスあると思うんだけどなー向いてると思うんだけどなー」


「気持ちだけもらっとくよ。俺そろそろ帰るけどひとりで帰れるか?」


「わかった。残念だけど他を当たるよ。何言ってんの?私神様だもん。余裕だよ。」


 神様って言えば何でもいいと思ってるな。こいつ。


「それじゃあな。また会ったらジュースでもおごってやるよ。」


「いいの?やったー!」


「いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい。」


 結は申し訳無さそうに言った。


「このくらいいいって。気にすんな。じゃあ。」


「うん。じゃあまたね。」

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捨てる神あれば拾う神あり キャベツ太郎 @mwam728

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