第参の伝説「覇動《はどう》」

第1章


 ◯


 パカラッ、パカラッ、パカラッパ。パカラッパッパッ!山道を馬が駆ける。


「はいし〜どうどう、はいどうど〜♪」


 男が声を掛けると、馬はその脚を緩めた。


 巨大な馬に跨った男は、峠の頂から街を見下ろした。


 その街は海に面した海岸線を除き、三方を険しい山に囲まれている。


「さあ、あの街へ行く道はあすこしかないから、もうちょっと頑張っとくれ。」と馬の頭をポンポンと撫でた。


「ブルルルルン。ブルッ。」


 馬は返事をする様に鼻を鳴らすと、再び駆け出した。


 パカラッパ、パカラッパ、パカラッパッパ!


 さらに小峠を三つ越えたところで宿場に着き、ちょうど日が暮れた。


「大切な馬だから、よく休ませてやっとくれ。」と、男は宿の主人に馬を預けた。


「へい。かしこまりやした。」と主人。


 馬小屋へ連れて行く道すがら、主人の子どもが言った。


「ねえ、おとおちゃん。これ、ロバだよねえ?」


「し〜ッ!ええだよ、馬って事で。」


 男は一風呂浴びると、晩酌をしながら女将に尋ねた。


「それにしても、ずいぶんと険しいところにある街ですねえ。」


「ええ、元々は三方とも険しい山に覆われていて道すらなかったそうですよ。言い伝えによれば、旦那が明日お通りになる道も、その昔、龍が天に昇る時に通ってできたのだとか言われております。」と女将が酌をしながら言った。


「なるほど南蛮食うほど辛い!それで昇龍道と言うのか。明日は上りじゃなくて下りだけどなぁ。あっはっはっ。」


 女将はクスリともしなかった。


 男はバツが悪そうに頭をポリポリ掻いて言った。


「ああ、街まではどれ位かかるかなぁ?」


「そうですね、馬で駆けて一日位でしょう。ではごゆっくりなさってください。」と女将は布団を敷いて出て行った。


 翌朝、夜も明けぬ内に馬に跨り出発した。


「主人、女将、世話になったな。」


「お早いお発ちですね。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいやせ。」と女将。


「こちらが昇龍道でございやす。」と主人が看板を指差した。


「うむ。ハイヨー!ホー!」と掛け声を掛け、馬で駆けて行った。


 見送りながら主人の子どもは主人の着物の袖を引っ張り言った。


「ねえねえ、おとおちゃん。あれ、ロバだよねえ?」


「ロバだよ。」


 第2章


 パカラッパッパッパッパー!


「急がねばならん!しんどいだろうが頑張っておくれ!」


 馬は懸命に昇龍道を駆けた。


 昼を過ぎた頃、街の入り口へと到着した。


 大きな門を、二人の屈強な門番が護っている。


 向かって左の門番が「むむむっ!何やつ!合言葉は?」と言い、続けて右の門番が「山!」と問いかけた。


 馬に跨った男は答えた。


「ホトトギスンハツガツヲン!」


 すると「セイタイニンショウカンリョウ」と中空に表示され、門が開いた。


 昇龍道から、街へ向かって風がフワリと吹き込み、馬のたてがみが風でソヨソヨとなびいた。


「ようこそおいでくださいました。どうぞお愉しみください。」と、二人の門番はペコリとお辞儀をすると、それぞれ街の表通りに向けて手を拡げ、歓迎の意を表した。


「海は何処に?」男は左の門番に尋ねた。


「海ですね。海は、こちらの大通りを真っ直ぐ進み、突き当たりのあの塔を右へひたすらお進みください。」と右の門番が答えた。


 真っ直ぐ延びた通りのずっと先に天高くそびえる塔が見える。


 男はてっぺんの方を見上げながら「あれ、登ってみたいねえ。」と馬に声を掛けた。


 さらに半日掛けて駆け、海へと到着した。


「ウィィィィィィーッ!はい、どうどうどー!」


 男が声を掛けると馬は浜に立ち止まった。


「綺麗な夕焼けだなあ〜。おい。」


「ブルルルンッ。」


 男は辺りをキョロキョロと見回すと、浜を探索した。


「ふむ。ここではないようだな。」と呟いた。


 すると浜の向こうから、一人の老人がテクテクテケと歩いてきた。


「こんばんは。お爺さん、この男を見かけなったかね?」と、人相書きを見せて言った。


 第3章


 ◯


「ん?いやあ見ないねえ。この辺じゃあ見かけない顔だやあ。」と答えた。


「ふうん。そうか、どうもありがとう。」そう言うと、男は馬に声を掛けた。


「疲れたね。」


「ブヒンッ。」


 馬は頷く様に首を縦に振った。


「ところで、お爺さん。この辺に、いい宿ありませんか?」男は、そのお爺さんに尋ねた。


「あああああ、あっちの港の方が宿屋街だで行ってみない。」と歩いて来た方を指差して言った。


「かたじけない。」


 そうして海街の宿屋で一泊し、新しい朝が来た。


「ああ〜、よく寝た!疲れもとれたし出掛けるぞ!」と馬に声を掛けると、馬も元気よく頷いた。


「ブッヒヒンッ!」


 昨日は暗くて気が付かなかったが、朝陽を浴びる山が見えた。


「ほら、見ろ!すごい雄大な山が見えるぞ!綺麗だなあ〜。素晴らしい、元気が出る。」


 そしてまた半日掛けて駆け、街の門へと到着した。


「マチハオタノシミイタダケマシタカ?マタノオコシヲオマチシテイマス。」と中空に表示され門が開いた。


 男が、ふと門を見上げると、「昇龍道」と書かれていた。


 門をくぐると三頭の馬の一団と、二人の屈強な門番が何やらもめている。


「やいやいやい!通せぬとはどう言う事だ!」一団の真ん中の馬に跨った男が言った。


「ですから、通す訳にはいかないのです!」


 右の門番が言った。


「認証できないから通す訳にはいきません!」


 左の門番が言った。


「ムキャー!オレシャマを誰だと思ってやがる!」


 その光景を横目に見た時、一団の男と目が合った。


 そして一団の男は、指を差して言った。


「おい!あんな薄汚い駄馬を通して、オレシャマを通さんとはどう言う事だ!ムキャキャー!」


 指差された馬はショボリンと頭をうなだれた。


(「駄馬だと?カチコーンッ!」)


 駄馬と呼ばれた馬に跨った男は、馬を指差し言った一団の男が乗る馬の方に馬を寄せて言った。


「おい、おまえ今なんつった?」


 すると、「なんだあ、キシャマーッ!駄馬だろソレ!」と一団の男はもういっぺん言った。


 優しい眼差しで見つめ答えた。


「ロバだよ。」


 そして、一団のその男の腰の辺りをグイッと掴むと、上に向かって放り投げた。


「ムキャ?ムキャキャキャキャー!」


 一団のお供二人と門番の二人は、呆気にとられて空を見上げた。


「あ、投げすぎた。」と、男も空を見上げて言った。


 放り投げられた男は米粒に見える位まで空高くへと舞い上がった。


「ちょい前!」男が馬に指示を出すと、馬はちょっと前へ。合わせて一同もちょっと移動した。ザザザッ。


「ちょい右!」ザザッ。


「あ、もうちょっち後ろ!」ザッ。


 程なくして「ムキャキャキャキャーッ!」と叫びながら放り投げられた男が落ちてきた。


「ムキャー!おまえらちゃんとキャッチするだっちゃ!」


「へい!隊長!合点承知!オーラーイ、オーラーイ!」とお供の二人は受け止める体制万全だ。


 それをわざわざ制止し、投げた男が、


「オーラーイ!オーラーイ!俺に任せとけー!」と声を掛け、グローブをはめた両手を拡げた。


 お供の二人は、その男に全てを託した。


「おー!ナイスキャーッチ!パチパチパチ。」と一瞬早く、一同は拍手とともに歓声を上げた。


 ペッペッペー!ペシーンッ!と、グローブにかする事すらなく円陣の真ん中に落っこちた。


「あら?ごめん。捕り損なった。大丈夫?」と、男。


「隊長!ご無事ですか!」と、お供の二人。


 放り投げられた男は、ムクリと立ち上がりお供に向かって言った。


「あんな高いとこから落っこって、無事な訳ねえだろー!ムキャー!」


「おお!ご無事でなにより!」お供たちは言った。


「ん?あれ?大丈夫だなあ。ムキャ?」


 不思議そうに首を傾げた。


「今のは、みねうちみたいなもんだから。もういっぺん投げよっか?」


「ム、ムギュウ!」男はたじろぎながら言った。


「キシャマー、覚えとけ!一先ず帰ってサンダール様に報告だ!ムキャー!」と言い残し、一団は去って行った。


 パパパカパカパパ、パカ、カッカッカ。去っていく一団の馬の足音がこだました。


「お、おぬし!」左の門番が言った。


「いえ、礼にはおよびません。」と、男は照れ臭そうに答えた。


「なんてことしてくれたんですか!」右の門番が言った。


 第4章


「なんで?」男は、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で尋ねた。


「あれはサンダールの一団です。山の向こうにリングの使い手を大勢引き連れているそうです!」と、左の門番。


「多勢で来られては堪りません!あんた何とかしてくださいよ!」と、右の門番。


「そんな事言われても困るけど。わかった、わかった。なんとかするよ。」と、男は答えた。


「わかりました。では明日、辰の刻。昇龍道を登った宿場街の出口で落ち合いましょう!」と二人の門番。


「え?来るの?門は?」


「明日は休みなので様子を見に付いて行きます。」と、二人の門番は言った。


 そして、男は一足先に宿場街へと向かい、宿場街に着くと、行きに泊まった宿屋の主人が、看板に火を灯していた。


「ああ、旦那。お帰りですかいね?どうでしたい?」


「ええ。かくかくしかじか、これこれこれこれこういう訳で、明日、サンダールの一団のもとへ出向きます。」と、宿屋の主人に説明した。


「はっ、ひっ、ふえ〜っ!へホッ!」と、主人は腰を抜かして尻もちをついた。


 ザワ、ザワザワ。ガヤ、ガヤガヤ。


「おいおいおいおい、サンダールだってよう!」街の人々がざわついた。


「旦那、悪いけどよそへ泊まっておくんない。」主人は看板の灯りを慌てて消すと、宿屋の玄関のシャッターを降ろした。ガラガラガラッ。


「おいおい!こりゃあもう店じまいだ、片付けろい!」


 ガラガラ、ピシャリ。ガラ、ピシャリ。


 街の人々は、一斉に店を閉めたり、家に戻り始めたりした。


 そんな様子を見て、「ん?なんだい?どうしたい?」男は不思議そうに呟き、「困ったなあ。今日は店じまいだそうだ。」と、馬に声を掛けたその時である。


「やい、そこのおっさん。」と、囁く声が聞こえた。


 男が声の方を見ると、宿屋の二階の窓が少し開いていて、そこから主人の子供が覗いていた。


「そのロバ、カッコいいじゃん。」と、口に人差し指をあて、シーっとして言った。


「お、坊主なかなか通だな!」と、男も口に人差し指をあててシーっとして言った。


「あっちに使ってない馬小屋があるで使っていいよ。」と言って指差した。


「いいのかい?ありがとう、恩にきるよ!」とシーっとして言ったところで、


「タツヤー!ご飯だよー!」と呼ぶ女将の声が聞こえた。


「タツヤー」と呼ばれた主人の子どもは、シーっとやって窓を閉めた。


「うわ!こりゃあボロいなあ。天井落っこちちゃってないじゃんか。」と男は言いながら、馬を入れた。


「まあ、ありがたいな。あの坊主に感謝しよう。」と言いながら、左の手のひらを土間に向けて呟いた。


「魔法陣!」


 すると、土間から少し間を空けたところに、ボワンっと魔法陣が浮かび上がった。


「よっこら小吉。もとい、大吉。大安吉日。」と言いながら、魔法陣の上に寝っ転がった。


「おい、見ろ。星が凄い綺麗だぞ!あれは、ウメン星。あっちのが、イモノ星。それからあれが、アマナッツ星。あれとあれとあれでトリプルスター。」手を頭の後ろで組んで、片膝を立て、その上にもう一方の脚を乗せて夜空を眺めながら呟いた。


「昔、宇宙には果てが無いと聞いたんだ。」


 すると、「また、その話ですかい?」と馬が言った。正しく言えば、男が敷いた魔法陣の摩訶不思議な力によって、男と馬は話しをする事ができるのだ。


「旦那の話しも果てしないっすよ。今日は走り疲れたから、俺はもう寝る!」と、馬は言った。


「まあまあ、いいじゃんか。ちょっと話そうぜ。小さい頃はさあ、果てが無いとか意味わからんから、考えると頭がグルグルしてさあ。でも、その晩に寝りゃあ次の日にはもうすっかりそんな事は忘れてさあ。」


「うんうん。」


「また、何かの拍子にフト思い出して、頭がグルグルしてさあ。」


「うんうんうん。」


「大きくなるにつれて、意味は分からんけど、ああ無限なんだなあと思うようになって、頭もグルグルしなくなったよ。そういう事ない?」


「・・・。ぐう。」


「ああ、寝ちゃったか?星がキラキラ綺麗だなあ。インフィニティーワールド。」


 男は手のひらを夜空に向けて「魔法陣」と呟き、もう一枚の魔法陣を天井の辺りに浮かべた。


 そして魔法陣の升目を指差しながら、


「ん〜、これはこっち。これは、こう。これはこっちだな。」と言いながら、升目を動かした。


「限りはあるんだ、きっと。いや、そもそも何も無いのかも・・・。ぐう。」


 そう言う間に、男も寝てしまった。


 第5章


 チュン、チュン。チュンチュチュン♪


「おはよ〜♪おやすみ〜♪こんにち〜わ♪こんばんわ〜♪」


 小鳥達の奏でるメロディーに乗せて歌う、馬の歌声で男は目を覚ました。


 ヒュウヒュウヒュウとそよぐ風に、葉の茂った木の枝が、サワサワ、サワサワワ。隣の葉の無い木の枝が、ブブブンブンとベースを付けた。


 眩しい朝陽を、掌で遮る様にして男が言った。


「うーん、むにゃ。やあ!森のみなさん、グッモーニン!」


「それじゃあ、行かまいかっ!」と馬の声。


「おうよ!」そう答えると、男は2枚の魔法陣をセッセッセ、ヨイヨイヨイと畳んでしまうと、馬に颯爽と跨り声を掛けた。


「ハイヨーッ!いざ行かん、サンダールの下へ!」


 すると馬が、それに答える様にブヒンと鼻を奮わせ、前足で地面をひと蹴りした。


「ところでサンダールって誰だろね?」と、男は馬に尋ねたが、馬も首を傾げながら疾風の如く駆けた。


 辰の刻、男は約束の昇龍道を登った宿場街の出口で2人の門番を待った。


 ブロブロブロロ、ブロン。


 程なくして、トラクターンに乗り2人の門番がやってきた。


「お待たせしました。さあ、サンダールの下へ向かいましょう!」左の門番が運転席から顔をのぞかせ、男に声を掛けた。右の門番は助手席に乗っている。


 トラクターンの右側に並走し、馬が駆ける。


「そう言えば、お互い名前も知らなかった。俺は、マカロニン。そしてこっちは、相棒のホーレンソー。」と馬をポンポンとしながら、男は挨拶した。


「失礼しました。そうです、私はハムカツンです。」運転席の門番が言った。


「そして私が、メンチカツンです。」と助手席の門番が言った。


「よろしく、ハムカツンとメンチカツン。ところで、サンダールとは一体何者なのですか?」男は尋ねた。


 ハムカツンは、右手でハンドルをさばき、左手でサングラスを外すと柄をくわえる様にしながら話し始めた。


「サンダールは、最近勢力を伸ばしているリングの使い手を束ねる頭領です。いわゆるボス。我々の街では良質のプレミアムなメタルが採れるので、それが狙いです。


 良質のメタルでリングを精錬し、力を増したいのでしょうな。


 そう言えば、マカロニンもリングの使い手のようですね。それもかなりの遣い手とお見受けした。」


「いや、そんなにたいしたものではありません。独流ですから。上には上がいます。未だリングの本質が何かも分かりません。」マカロニンは答え、ホーレンソーは駆けた。


「遣い手とリングの関係はトラクターンに例えるならば、いわば両翼の様なものです。遣い手だけでも、リングだけでも役には立ちません。どちらが欠けても駄目なのです。対の様に調和が取れなければ真の力は発揮できないのでしょうな。ずっと一本道です。この道をひたすら行けば、サンダール達の拠点に辿り着きます。」


 助手席のメンチカツンは、地図を見ながら続けた。


 長い一本道を走ると、左手に拓けた草原が現れた。春の野に咲く草花がソヨソヨ、ソヨンと揺れる。


「ここは?」マカロンは尋ねた。


「ああ、ここは伝説によれば勝負の舞台です。その昔に、伝説の龍が昇龍道を昇り、あそこで伝説の虎と闘ったと伝えられています。


 海千の龍、山千の虎がここで雌雄を決したのだとか。」ハムカツンが指をさした。


 マカロンは馬上で、フッと目を閉じ両手を大きく拡げた。


「むむむ!感じる!確かに感じるぞ!春の草花、木の花の息吹の中に伝説の鼓動を!龍の咆哮と、虎の雄叫びを!インフィニティーなワールド!」


「グオオーッ!、ガオオーッ!。」


「おい、メンチカツン!寝るんじゃない!」と、ハムカツンがメンチカツンを揺さぶった。


「ああ、すまん。心地よくてついうっかり。春は気持ちがいいなあ。さあ、マカロニン、向こうにトンネルが見えてきました。あそこは虎の穴と呼ばれ、伝説の虎がいたとの言い伝えで知られています。あのトンネルを抜ければもうすぐですよ。」とメンチカツンが伝えた。


「よし!分かった!一足先に行っているぞ!」とマカロンは言い、馬の背中で屈み込み「グラビティ!ベロシティー!」と唱えた。


 馬は目にも止まらぬ程の速さで虎の穴へと駆け込んだ。


「お、お、お!お待ちなされ!そ、そこは!」ハムカツンが叫んだんだ。


 そしてメンチカツンが続けた。


「そこは!迷宮だに!」


【予告編】


 至高の伝説


「極」


 -Extreme-


 伝説ここに極まる


 第6章


 バババババッ、バッシューッ!と、マカロニンとホーレンソーはトンネルを一気に駆け抜けた。


「眩いばかりに照りつける太陽!青い空!白い雲!緑の野原!流るる清流!なんと気持ちのよいことか!」マカロンは、大きく深呼吸すると丘の上から、眼下に広がる一面の田んぼを眺めた。


 その頃、トンネルの手前ではハムカツンとメンチカツンが、マカロンとホーレンソーの後をトラクターンで追っていた。


「たとえ技術がバカ進歩したって、眩しい物は眩しいじゃん。」そう呟き、スチャッとサングラスを掛けた。


「ええ天気だねえ。五月晴れだに。たとえ技術がバカ進歩したって、腹は減るじゃん。見てみない!この彩り豊かなお弁当!腹が膨れりゃあええってもんじゃない。」メンチカツンは、助手席でお弁当を楽しげにつっつきながら言った。


 ツンツクツン。


「マカロニンが、『草花木花の香りを感じる!』とか言ってたけど、お前の弁当か。」


 トンネルに向けて、ハムカツンはギアを上げ、トラクターンを加速させた。


 ブンブブーンッ!ブバンッ!


 するとトラクターンの機体はフワンッと浮き上がった。


「マカロニンは、果たしてあの迷宮を抜けられるだろうか?」ハムカツンが、トンネルを見下ろし言った。


「抜けられぬだろうか?」


 トラクターンはブンブンブンと軽快に空高く飛び、尾根を越えた。


 ピーヒョロロロローッ♪ 鳶の鳴き声が山にこだました。



 第7章


 トンネルの出口辺りを空高くから見下ろしていたメンチカツンは「千里眼!」と呟くと、指で小さな小さな輪っかを作り、そこから覗いて米粒ほどにも見えないであろうマカロニンの姿を地上に探した。


「そうか、お前は山の属性、鷹のリングだったなぁ。よく見えるな。俺では到底、見つけられん。」ハムカツンも下を眺めながら言った。


「ムムムッ!何と!あやつトンネルを抜けたぞ!あそこだに!」と、雲の隙間から丘を指差して言った。


 ブンブンブイーン。


 ハムカツンは、トラクターンを急降下させ、マカロニンとホーレンソーが立つ丘へ向かった。


「マカロニーンッ!よくあの迷宮を抜けられたな!」


 馬上からサンダールの拠点を眺めていたマカロニンは、振り向き仰ぎ見て言った。


「やあ!ハムカツンにメンチカツン。迷宮とは何事だい?」と、マカロニンはあっけらかんと応えた。


 ハムカツンとメンチカツンは、トラクターンをマカロニンとホーレンソーの後方に停めた。


 あご髭をたくわえた、屈強な二人が、小脇にボードを抱えてノシンノシンとやって来た。


 2人の遠く後ろには、どこまでも広く広く青い海を望む、長い長い海岸線が拡がっている。


「どんな塩梅かいね?」メンチカツンは、マカロニンに問うた。


「うん。あそこの城門のずっと向こう、あそこの旗の下にいるのがサンダールだ!」マカロニンは、ホーレンソーの背の上で、指差し言った。


「うむ。確かに!『我こそは大将サンダール!今ここに!』と確かに書いてある!」


 メンチカツンは、指で作った小さな輪っかの穴を覗きながら言った。


 魚の形を模した旗が春風にたなびいた。


「罠やもしれんぞ・・・、マカロニン。」ハムカツンは言った。


「うん・・・。いや、俺はあれを信じよう。」マカロニンは、たなびく旗を見つめて言った。


 チュンチュン:チュンチュチュン♪



 可愛い雀が、ホーレンソーの頭の上にとまり楽しげに鳴いた。


 第8章


「ありがとう!チュンチュン。偵察ご苦労様。」マカロニンは雀に声を掛けた。


「なるほど、マカロニンの属性による能力か。」メンチカツンが言った。


「よし!行くぞ!作戦はこうだ。あの正面の城門、あすこは相当厳重な筈だ。だから、あすこへ真正面から乗り込む!」マカロニンは、秘密の作戦を話した。


「ば、ば、馬鹿な!危険だぞ!マカロニン!」とハムカツン。


「サンダールのリングの使い手だらけだぞ!多勢に無勢だ!無茶すぎる!」とメンチカツン。


「うん。だけどあすこしかないんだ。よく見ろ。」とマカロニンは、指差し続けた。


「見ろ、魔法陣だ。ようく目を凝らさないとわからないが、立て札に書いてある!『魔法陣を張ってございますので、リングの使い手の方はこの城門をお通り下さい。入り口はここのみです。』だそうだ。」


「なんたる事だ!」ハムカツンとメンチカツンは青色吐息。


「任せておけ。行くぞ!」とホーレンソーを走らせ、マカロニンは城門へ向けて丘を駆け下りた。


 ハムカツンとメンチカツンもエアー・ボードで風に乗り後を追う。


 その頃、城門では火の見櫓の見張り2人がその様子に気付いていた。


「た、隊長!駄馬が!いや、ロバがこっちに向かって突進してきます!」と火の見櫓の見張りの2人。


「なんだと〜、どれどれ?ムキャーッ!昨日のヤツらじゃねえキャーッ!!!」とハンカチの端を噛みながら言った。


 第9章


「パンケッキー隊長!いかがいたしましょうか?!」


「飛んで火に入る夏の虫とはこの事よ。まあ、どうせ入る事もできんだろうが。ムキャキャキャキャ!」


「隊長!春です!」「です!」


「うるしゃいな!じゃあ、春の虫!」


 そう言う間に、マカロニンとホーレンソーはもう丘を下り、一直線に城門へ。


 マカロニンが、「グラビティ!」と唱え手綱を緩めると、ホーレンソーは大地をバシュッとひと蹴りした。


 なんという事だろう。ホーレンソーは、まるで天馬の様に大空高く翔んだ。


「ムキャ?魔法陣がある事も知らないで、飛び越える気か?ムキャキャキャキャ。」


 やがて、ホーレンソーがゆっくりフワフワと下降し始めたかと思うと、マカロニンは「グラビティ!ブラックホース!」と唱えて手綱を引いた。


 途端に、ホーレンソーは流星の様なスピードで下降した。パカラッパ!パカラッパ!パカラッパッパー!


「隊長!凄い勢いでこっちへやって来るであります!」「で、あります!」火の見櫓のメイプルンとシロップンが言った。


「ムキャ?」


「ひゃー!ひええ!あわわわわ!あわ!」


「ひえ!むぎー!」


 メイプルンとシロップンは、おったまげて尻もちをついた。


「あ、あ、あいつら城門を踏み潰す気か?ムキャ!?」


「こじ開けろ!ブルートフォースアターック!」


 マカロニンとホーレンソーが迫ったその瞬間、「ニンショウカンリョウシマシタ。」シュー、シュパー!と門が開き、ホーレンソーは、ズシシン!と着地。


 マカロニンは身を翻してハムカツンとメンチカツに向け叫んだ。


「突破だぜーッ!」


 ハムカツンとメンチカツンもエアーボードで滑り込んだ。


 そこへ、隊長のパンケッキーが立ちはだかる。


「ここで会ったが百年目!昨日は油断したギャ、今日はそうはいかん!サンダール 火消しのハニーこと、蜂の属性パンケッキーとは俺の事だ!蝶の様に舞い、蜂の様に蜜を集める!」


「隊長!蜂です!」「です!」


「ウルシャイ!いいだろ別に!じゃあ、蜂の様に舞い、集める!喰らえ!ハニーハーーーーンッ・・・。」と、パンケッキーが唱え切るその刹那。


 マカロニンは、右手を振り出だし唱え切っていた。


「グラビショナール・アクセラレイショーーンッ!」


 すると、パンケッキーはおろか、1万のリングの使い手の動きがあたかも止まったかの様に見えた。


「ム?ムキャ!?か、体が動キャン!」


第10章


「悪いな!先に行かせてもらうぞ!アクセル全開!バリバリ伝説!」とパンケッキーに向かってハンカチを振りながら、マカロニンはホーレンソーの手綱を引くとホーレンソーは、軍勢の間を目にも止まらぬ早い脚技で駆けすり抜けた。


目印の旗まで一直線。


「あいつがサンダールか!」


行く手に真っ赤な衣装に身を包み、髪を結いた仁王立する男の姿が見えた。

猛然と突進するホーレンソーにも微動だにしない。


「サンダールとやら!悪いがここから退いてもらうぞ!」馬上でマカロニンが握りしめた右の拳には熊のリングがチランと輝いた。


もうホーレンソーがすぐそこなのにサンダールはビクともしない。いや、マカロニンの力によって身動きすらとれない。


バシューッ!!!ズババババーンッ!!!


マカロニンとホーレンソーが一気に突き抜けた。


「ハイ、どうど〜♪」とマカロニンがホーレンソーを制止した。


(「おかしい。どういう事だ?全く手応えがない・・・。」)


マカロニンは、馬上から辺りをキョロキョロと見廻すがサンダールの姿は見当たらない。


エア・ボードで追随してきたハムカツンとメンチカツンが叫んだ。

「マカロニン!上!上だ!」


「何だと!」上を見上げたその時、ホーレンソーの鼻先にサンダールがふうわりと立った。


マカロニンは、サンダールの足を掴もうと手を伸ばしたが、サンダールはフワ、クルリンと三回転半ひねりで宙返りして地上に降り立った。


「何だあ?おんし。」サンダールが顎に指をあてて口を開いた。


第11章


「俺はマカロニン!そしてこっちが相棒のホーレンソー!そして向こうの2人が連れのハムカツンにメンチカツンだ!」


「チュンチュン♪」


「あと、スズメのチュンチュン!」


「唐突すぎて、何の事だか全く意味は分からんが、熊のリングの使い手か。その駄馬、失敬、馬の上で勝負になるとでも思っているだかね?」マカロニンの右手のリングに目をやり言った。


「それもそうだ。一理ある。」と、マカロニンは、ホーレンソーから降りると鞍をポポンと叩いて「あっちへいっといで。」と声を掛けると、ホーレンソーは、ハムカツンとメンチカツンの方へ歩いて行った。


「さっきも言ったが、ここから退いてもらうぞ!サンダール!」と熊のリングをはめた右拳を突き出して言った。


「なんだか意味は分からんが、相手してやるでかかって来ない。」とサンダールは腕を組んだまま相変わらずの仁王立。


「ベアーリング・ドリブーンッ!」と唱えると、サンダールの懐に飛び込んだ。


ダダダダダッー、シュッ!


「は、速い!しかもベアーリング・ドリブンだと!?重力を自在に操り、熊のパワーを高速ドリブンする。マカロニンの真骨頂!」


「あれを喰らったら流石のサンダールも!」


ハムカツンとメンチカツンは固唾を呑んで見守った。


マカロニンの右拳が唸りを上げた。続いて左の後ろ回し蹴り足払い、右のハイキック、とどめの左裏拳からの必勝!熊パンチの高速ドリブン。


ハイッ!ハイッ!ハイハイハイッ!グルグルグル!ザシュッ!



(「まただ・・・。手応えがない!?どういう事だ?上か?」)


「マカロニン!今度は後ろだ!」ハムカツンとメンチカツンが叫んだ。


マカロニンが後ろを振り向くと、サンダールが背中をポンと押し、マカロニンは翻筋斗打ってでんぐり返った。


ゴロゴロゴロリ、ゴロゴロリ。


「ゼエハア、ゼエハア。」息を切らしながらマカロニンは立ち上がった。


「マカロニンの分が悪いな・・・。」


ハムカツンが呟いた。

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