魔の章 魔術師、斯く語りき
──帳は黒々と。世界は影に閉ざされ、月が異界の門を開く穴の如く瞬いている。
即ち是は彼らの時間だ。月明かりが男の姿をだけを世界から切り取る様に映し出すが、他は薄闇の中に溶けるようにして何も見えない。或いはそれは独り舞台でスポットライトを浴びるのにも似ているな、と男──
集会、と一口に言うがそれが何かある訳ではない。情報交換をする連中も居なくはないが、基本的には各々が自らの研究する方法で世界の真理に挑むような頭の固い学者連中ばかりだ。お陰様で数えて二百の歳月の中、技術の進展という言葉はうず高く埃を被っている──の、だが。今回はどうやら違うらしい。月光に切り取られた自身の身体に刺さる視線。まるで裁判じみている。
「二十七番」
響いた呼称に首を傾げる。久しく呼ばれた名だ、序列など合ってないようなモノを未だに憶えている
「
淡々とした問いは実に、魔術師らしいものであった。世界を限定し、古きを重んじては新しきを厭う。行き過ぎた排斥のあまり遂に自らを世界の影に閉ざした種族らしき馬鹿馬鹿しい問い。それがロノベにはたまらなく鬱陶しい。
「馬鹿馬鹿しい質問は辞めたまえ、四十番」
ロノベは低く声を上げる。嘲りを音に乗せて、嘲弄を眼差しに滲ませて。
「諸兄。確かに我等は影の種族だ。光を浴び続ければあっという間に燃え尽きて灰と化し、我等が溜め込む叡智はその真価を見ることもなく土に還るだろう。だが、それがどうした?考えてもみたまえ、新たなる智が其処にあるのだ。ならば腕を伸ばすしかあるまい?」
当たり前だ。殺人鬼という種族が人間を殺さねば生きていけないならば、魔術師という種族は知識を求めずにはいられないのだから。
「四十番。いいや、確か
ざわめく暗闇の中を見下ろす男の眼差しは、月明かりの中にギラギラと揺らめいた。瞬間、月の光が強くなる。ロノベだけを切り取っていた燐光が世界をしらじらと映し出す。狭まる暗闇の中で、微かに落ちる声。
「──二十七番、否、■■■■。十九の魔を統べる侯爵。汝は狂っている、狂っている」
「四十番、三十の魔を司る大いなる伯爵■■■。そうとも、我等は皆等しく狂っているのだ」
すっかり消え失せた闇を見送って、ロノベは踵を返した。そういえば折角手に入れた胎をもう少し調べてみようとしていたことを思い出しながら。
殺人性愛情忌憚 猫宮噂 @rainy_lance
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