息抜き小説
流民
第1話
「なあ、知ってるか?」
そいつは真面目な顔をして話し出す。こいつの話は大体がかなりやばい話が多い。今回もまた、かなりやばい話になりそうだ。
「とある物質の話なんだが……」
そいつはそう前置きをして話し出す。化学的な話は嫌いじゃない。俺は黙って聞いているが、もう一人のツレはスマホをいじりながら、適当に聞き流している。いつもこいつはスマホばかり見ている。人の話はちゃんと聞いた方がいいぞ、本当に。
「これがかなりやばい物質らしい」
俺は黙って頷くが、こいつはずっとスマホを見てやがる。ほんとに……
「まず、やばいのは酸性雨の主成分だってこと。もうこれだけでもかなりやばいのに、この物質はそれだけには留まらない位やばい」
何てことだ、そんなやばい物が有るのか? 俺はそいつの話を聞き続ける。
「さらに言うと、温室効果も引き起こすらしい。地球が温暖化してる原因もこいつにあるのかもしれないな……」
そいつは少し悲しそうな顔で言う。ああ、お前の気持ちは解る。俺だって地球は大事だと思う。
「身近な所で言うとこういう物もある。火傷だ。しかもかなり重篤なやつだ」
火傷だって!? 俺はかなり驚いてしまった。そんな身近な怪我にまで関係してくるのか? おいおい、いったい何なんだ、それは……
「もっというと、地球の浸食を引き起こし、多くの物質の腐食を進行させ、電気事故の原因となったり、ブレーキの効果を低減させたり、さらに酷いのが、末期癌患者の悪性腫瘍から検出されたり……とにかく、この物質はかなりやばい」
「癌だって!?」
俺は思わず声を出してしまったが、そいつは黙って頷く。こいつは相変わらずスマホをいじってる。なんて奴だ!
「だがな、こいつがやばいのはここからだ」
俺はゴクリと唾を飲む。
「その危険性に反して、それは頻繁に用いられる」
「おいおい……ちょっと待て、今なんて言った?」
俺は思わず聞き返した。まさかそんな危ない物が頻繁に使われている? いったいどういう事だ? 国はなんで規制しない? 俺の頭の中では色々な疑問が渦巻いた。
「そうだ。たとえば、工業用の溶媒や冷却材として用いられたり、原子力発電所でも使われたり、発泡スチロールの製造に使われたり、防火剤としても使われたり……まだまだある」
「ちょっと待ってくれ、もう聞きたくない!」
俺は耐えかねて思わず声を出す。
「いや、これは俺たち人類の問題だ。ちゃんと最後まで聞け! それが俺達人類の義務だ!」
「解った……」
俺がそう言うと、そいつは少し頷き、また話し出す。
「続けるぞ……この物質は、各種の残酷な動物実験に使われたり……」
「動物実験だって!?」
動物好きの俺は、思わず声を出してしまう。
「ああ、そうだ動物実験だ。だがな、被害は動物だけじゃない」
「なん……だって……?」
「防虫剤の散布にも用いられたり、洗浄した後も産物はそれによって、汚染状態のままだ。それに……」
「それに?」
「ジャンクフードや、その他の食品にも添加されたりもしてる。更にこれはかなり直接的だが、それを吸引すると死亡するという例もかなりある」
「死……」
俺は確認するかのように『死』という言葉を呟いてしまった。
「ああ、そうだ。だがな、それが最も怖いのは、それが飲食物に紛れていたり、子供のすぐに手の届く所にあるってことだ」
「子供たちが手の届く場所に……」
俺は絶望してしまいそうになった。
「それはいったいどんな物質なんだ?」
俺は最後の気力を振り絞ってそいつに聞いた。
「一酸化二水素」
そいつは一言そう言うと黙り込んでしまう。
「一酸化二水素……」
俺は確認するようにもう一度言葉に出す。
すると、今までスマホをいじっていたこいつが急に話に入ってきた。ようやく、こいつにもこの重大さが解ったか。
「それってさ……
水だよね?」
俺は騙されやすい。
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