帰宅!

 もう辺りは暗くなりはじめていて、外に建物の灯りも少しずつ目立ってきた。

 梓の服を買い終わった俺たちは、今電車の中でゆったりとした時間を過ごしている。


「ふぁ〜、疲れた。まさか遊びに行くのでこんなに疲れるなんて」


「今までショッピングモールとかみんなで行ったことなかったのに、楓が急に行こうだとか言い出すからだろ?」


 俺は外の景色を眺めながら隼也の話を聞き流すと、隣でウトウトし始めている汐に目線を向けた。

 もうすでに半分ほど寝ているようだ、首がコクコクと上下に揺れていて、その度に起きようとしてるのかパチパチと何度か瞬きをしていた。


「汐ちゃん、眠いなら寝てもいいよ。ついたら俺が起こすから」


「本当?じゃあ…おやすみ…なさ…」


俺がそう言った瞬間に眠りの中へと落ちていってしまったのか、汐の体が俺の方へと倒れかかってきた。


「おー、汐ちゃんが寝るんなら私も寝よっかなー、隼也肩かしてー」


「えー、桐乃まで寝なくていいだろぉー」


「えぇー!!なんでぇ!そんなの差別だよ。差別差別〜」


 そんなことを言いながら桐乃は隼也の肩に勢いよく倒れかかる。結局何を言われようが寝るつもりだったんだね桐乃…。

 そして、あっという間に眠った桐乃は寝息をたてながら口からヨダレを垂らしていた。そんな桐乃を見た隼也ははぁ…とため息を吐き、俺の方へ顔を向ける。


「じゃ、こいつもよろ…しく!」


「はっ!?なんで桐乃まで!!」


 隼也から押し渡された桐乃を避けれず受け取ると、両側からかかる体重に俺は息苦しくなる。

 因みにそんな俺たちの様子を知ってか知らぬか、梓は1人荷物片手にスマホをいじっていた。


「よかったなー、楓。両肩に花じゃん。クラスの男子が見たら羨ましがるだろーなー」


「ぜんぜん嬉しくないよ。苦しいし。クラスの男子がどう思うとか知らないけどさ」


 でもそれが原因でクラスの男子に嫌われるのは困る…!!それだといつまで経っても俺のクラスでのボッチ状態が改善されないよ!!

 俺は慌てて両肩にいる2人を交互に見る。そして、隼也の顔を心配そうな表情をしたまま見つめた。


「冗談、冗談だって!何そんな不安そうな顔してんだよ」


「だっ、だって隼也がぁ〜…」


そんなやりとりをしている間に電車は駅に着いたようで、その止まる時の反動で隣で寝ていた2人も目を覚まし、周りを見渡していた。


「ほ、ほら。もう着いたみたいだし、いこーぜ!」


「そうだね…。俺…、どうしよ」


「だーかーら!大丈夫だって!!」


 そんな俺と隼也の様子を見て、梓ははぁ…とため息を吐きながら「早く出ないと扉閉まりそうだけど?」と俺たちに声をかけると桐乃と汐を連れて外に出て行った。

 俺と隼也はその言葉を聞いて慌てて席を立つと、急いで電車から飛び出した。


「ふあ…、土曜日ももう終わりかぁー」


「そだね…。それより置いてかないでよ…」


「汐、眠たくなってきちゃった…」


 桐乃が欠伸をしながらそう言うのを息をきらしながら俺が呼び止めている中、汐は梓の方へ寄りかかっていた。

 俺は、心の中でちょっ、だから先行かないでよ…。と思いながら早足でそんな梓たちの方へ移動する。そして、そのあと、同じようなことを思っていたのか…、そんな顔をしていた隼也も早足で俺のあとを追ってきた。


 俺たちは駅をあとにすると、そこから自分たちの家を目指して歩き始めた。

 辺りの街灯があるおかげで難なく家までたどり着けそうだが…、少し遅くなりすぎた気がする。


「だーいぶ暗くなってきたね…」


「そうね…」


 俺がそう言ったのに梓がそう返してきた。みんな疲れているのか、口数がかなり減ってきた。

 しばらく歩いていると、だんだんと自分たちの家の近くまできたのか、周りに家が増えてきた。そして、俺の家も少しずつ姿を露わにする。隣にある梓の家もすぐに見えてきた。


「じゃ、そろそろ解散っだなぁー」


「うん、汐疲れちゃった。また遊ぼーね?」


「私も疲れたよぉ〜。おうよ!また遊ぼうぜ汐ちゃん!」


「桐乃は全然元気そうに見えるけど…」


 俺は汐にグッドサインを送る桐乃を見て、そう言いこぼすと、じゃあねと桐乃と汐、そして隼也に向かって手を振った。


「はぁ…、なんで楓と隣の家なんだろ」


「なっ、ため息つかないでよ!なんだよぉーひどいなぁ」


梓と一緒に3人から離れたところ、そんな隣でため息を吐く梓の様子を見て俺は肩を落とした。いや、だっていきなりそんなこと言われたら誰だってへこむでしょ…。


「ふふっ。冗談だって」


「じゃあ梓は俺と隣でよかったって思ってる?」


すると梓は急に動揺した顔つきでその場に立ち止まった。


「ふぇ!?い、いやそれは…お、思って…」


「なんだよぉ〜。冗談って言ったくせに…」


「ふぁえ!?いや、その…あぁもううるさいっ!!楓のバカっ!!」


「えぇ!?」


 梓は顔を真っ赤にしたままそっぽを向くと、そのまま家の方へと走って行く。

 当然俺は棒立ち状態である。そんないきなりバカっていわれても…。


「じゃ、じゃあね楓!」


「へ?お、おー。じゃあ…ね?」


 急に梓に声をかけられ、俺が手を振ろうとした時にはもう玄関の扉は思い切り閉められてしまっていた。

 

「え、えーと…梓、どうしたんだろ…」


 そんな梓の入った後をぽけーっと眺めたあと、俺も自分の家の中へと入っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺たちコミュ障卒業し隊! ちきん @chicken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ