梓、服を買う

「そろそろ二階についたころかな」


「だろうね〜、隼也…どんな顔してるんだろ」


 ニヤニヤした表情でそう言う俺に対し、桐乃もニヤニヤした顔でそう返してきた。

 因みに俺たちは今は3階で止まっている。3階を押した後に4階を押したので、一度3階で扉が開いたようだ。

 まあ、このほうが隼也に3階にいると思わせやすいし…、隼也どんな顔するかなぁ。


「楓、ニヤニヤしすぎ…気持ち悪いから」


「んなっ、しっししししてないよ!?」


「してるから」


 俺は必死に梓に反論するとエレベーターの扉を閉め、エレベーターは4階を目指して動き始めた。それに今思えば桐乃もニヤニヤしているし、梓だってさっきまでニヤニヤしてたじゃん!

 エレベーターは4階につくと扉が開き、俺たちはエレベーターの中から順番に、俺から出てきた。

 周りにはいろんな服が置いてあり、多分この階が服の売ってるところなのだろう。隼也には悪いけど、この階にきて正解だったと思う。


「じゃあ、隼也がくるのまたないとねー」


 俺はそう言うと近くにあった椅子に腰を下ろし「ふぁぁ〜」と一度欠伸をした。

 すると、そんなことをしてる間に下のほうから、ドタドタと大袈裟に音を立てながら上がってくる何者か…いや、多分隼也の足音が聞こえてきた。思ったより早かったけど、なんでだろ。


「はぁ…はぁ…、よお楓…なかなか面白いことしてくれるじゃんか…」


「はい、お疲れ様です!」


俺は隼也に向かって敬礼しながら椅子から立つと、その姿勢を維持したまま隼也の様子を伺った。うん…かなり疲れておりますね。


「俺が二階から出ようとしたときに3階からさらにうえに上がろうとしてたからな…どうせこんなことだろうって思ったぜ」


「うーん…てことは扉を閉めるタイミング間違えたかぁ…もう少し遅く締めとけば気づかなかったのに…」


「おいっ!!」


 やっぱりタイミングって大事だよね…、タイミング次第で次の行動が変わってくるからさ。

 俺は隼也が顔を真っ赤にして俺に向かって言ってくるのを軽く無視すると、そのまま服の売っている中まで梓たちをつれて入っていった。隼也は「無視するなぁ!!」とそんなおれを指差しながら叫んでいたが、すぐに周りに見られて恥ずかしくなったのか、小走りで俺のところまで走ってきた。


「じゃあ服みにいこうか〜。とりあえず俺らは梓についてくから」


「えぇ!?いや、まあ…いいけど…」


 だって俺女の子の服とかわかんないし、梓についてくしかないからなぁ。

 俺は、俺にそう言われてから先に進んでいく梓を目で追ったあと、そのあとをみんなでついていった。

 しかし、どこに行くんだろうなぁ…とおれがふと思った瞬間、梓は急に俺の目の前で立ち止まり、俺はそんな梓に勢いよくぶつかる。


「ちょ、いきなり止まんないでよ」


「楓こそ、ちゃんと前見て歩きなさいよ…。ってそうじゃなくて、店員がこっちにきてる…!!」


 梓はそう言うと俺たちのいる方に方向転換し、そのまま歩き出そうとした。

 おそらくこのままでは店員に捕まりオススメの服などいろいろと言われるのだろう。普通の人ならそれが有難いし、ぜんぜん大丈夫なのだろうが、俺たちにとってそれはたまっちゃもんじゃない。

 俺もそんな梓を追うように方向転換すると、さっきと逆方向の向きに歩き出そうとした。しかし、この人数だ。全員がそんな状況を一瞬で理解できるはずがない。

 汐と桐乃は最後尾で俺たちのあとを追っていたので何がなんだか理解できていなかった。そのせいで出遅れ、店員はもう俺たちの目の前まで接近していたのだった…。


「しまった…、もう逃げれないぞ。ちなみに俺のコミュ力は限界だぁ…」


「どうすんだよ!!まさか…こんなところで新たな刺客がでてくるなんて…」


 俺が青ざめた表情でそんな言葉をこぼすと、それを聞いた隼也が焦った表情で店員の方を見ていた。

 そんな俺たちの気持ちもわからない…わかるはずがないが、店員の表情はとてもニコニコしている…すごい営業スマイルだ。


「どなたの服をお探しですか?」


 不意にかけられたことばに俺たちは皆一瞬硬直する。そして、我に返った俺たちは何て返そうかオーバーヒートした頭をさらに回転させようと必死に考えようとした。


「か、楓。こ、ここは梓の服を探してるって言えばいいんじゃないかな?」


「たしかにそうだけど…、それだとまだ店員とコミュニケーションをとり続けなきゃいけないよ?俺たちの精神力がそこまで持つか…、とくに梓が」


「でもそう言うしかないでしょ。わたしなら大丈夫だから…多分」


 桐乃からの順にそう返していくと、俺たちは最後にうんと頷きあい、店員の方へ振り返った。店員から見るとほんとにおかしな集団に見えてるだろうな…。でもまあそれは仕方ない!


「とりあえずな、全部適当にはいって答えりゃいいんだよ。それでどうにかなるって」


「しゅんちゃん適当…」


 そんな返事を聞いてるのか聞いていないのか、梓は店員に向かって「はい」と答えると、梓はそのまま店員にどこかへと連れて行かれてしまった。

 

「って、追わないと!?」


…………

…………………………

……………………………………


 …しかしそのあと、少し時間が経ったあとに梓を見つけたのだが、やっぱり遅かったようで梓はオススメされたのだろう、何着か服を手に持ったまま泣きそうな顔で俺たちの方を…いや、俺をめちゃくちゃ睨んでいた。


「バカバカバカぁー!楓のバカ!何で1人にするのよ!!」


「ご、ごめん…。あんまりにもどこか行くのが早いから見失っちゃって…」


 すると、梓はさらに俺を睨みつけてきた。そんな梓を見て俺は「ごめんなさい」と頭を下げながら梓に謝る。

 …おかしいなぁ、はいだけ答えろって言ったのは隼也だし、梓のこと考えて最初悩んでたのも俺何だけどなぁ…、何で俺が怒られるのぉ…。

 しかし、涙目で俺の体をポカポカと叩く梓を見て、どうしても謝らなければいけない俺であった。






 

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