ショッピングスタート?

「お、楓ー。遅かったじゃん。また桐乃に何戦も付き合わされたとか?」


「いや、そうじゃないんだけどさ、なかなか桐乃お目当てのゲームが見つからなくて…」


 俺は、ベンチに座っている隼也に手を振ると、隼也も笑いながら手を返してきた。


「ホント大変だったんだよー!まさかゲームセンターでコミュ力が試されるなんてねぇ」


「うはぁ、そりゃお疲れ様だな。俺たちが暇してる間にそんなことになってたなんて」


 何やら大変だったように話す桐乃を見て、隼也は目を大きくして驚いていた。

 そんな隼也たちは俺たちがゲームセンターに行ってる間に反対側にある本屋に行っていたようで、隼也がその袋を手にぶら下げていた。4冊ほど入っているところから、おそらく3人分の本が入っているのだろう。


「いくらメールしても返信がこないから、何でだろうって思ってたけど、そういうことだったのね」


 梓はいじっていたスマホをポケットの中へしまうと、はぁ…とひとつため息を吐き、俺と桐乃と隼也の方へ近づいてきた。1人取り残された汐も置いていかれないようにと慌ててそのあとを追ってくる。


「んじゃあ桐乃のゲームも終わったし、どうすっかねぇ」


「汐は何か食べたいなぁ…お腹すいた…」


「まあ、ずっと歩きだったしなぁ。しおちゃん何食う?」


 隼也がそう悩んでいると、汐が呟き、それに隼也が反応した。食べるって言っても、何を食べるんだろうか。俺はもうコミュ力は使いたくない…使いきったし、できるだけコミュニケーションをとらないところがいいんだけど。

 でも、コミュニケーションをとらないで何か食べれる…かなぁ。絶対何か頼んだりしないといけないよね…、隼也はなんとかいけるとして…、他3人と今の俺だと少し厳しい気がする。


「何か食べるのもいいけどさ、先に服買いに行ってもいいかな…、俺最近サイズ合わなくなってきてて…」


「私も服の方に賛成」


「んー、梓と楓がそうなら私も服の方で〜」


 最後に桐乃が手を挙げてそう言うと、そんなみんなの様子を見て隼也は「えぇ〜服かよ〜」と言い、なんだか不満そうな表情を浮かべていた。

 汐は「みんなが行くなら汐も行くー」と言っていて、とくに問題ないようだ。

 こうして、次に俺たちが目指す場所はとりあえず服の売ってあるところに決定した。だが、服も売っているところがたくさんあり、男性用と女性用とあるので、まず先に女子たちの買い物に付き合うことになった。

 俺は男と女で別行動で買いに行く方がよかったのだが、梓がどうしてもと言うので仕方がない。


「で?どんなの買うつもりなの梓は」


「べっ、別になんでもいいでしょ。楓には関係ないし」


「一緒にこいとか言っておいてそれはなくない!?」


 俺はそう梓に向かって訴えかけたのだが、梓はそんな俺を無視するようにそっぽを向いてしまった。

 そんなに機嫌を損なうようなこと言ったかな…

 俺はそんな梓の様子を見て頭を悩ませたが、やっぱりよくわからない。


「とりあえず行こーぜー。こんなところで立ち止まってても時間だけ過ぎてくだろ」


「え、あぁ…うん」


 不意に聞こえてきた隼也の声に俺はハッと我に返ったように返事をする。

 すると隼也は「そんな深く考え込むようなことじゃねーって」と笑いながら俺に囁いてきた。

 俺は、そうなのかな…と疑問に思ったが、さっさと歩いていく隼也を見て、慌てて追っていった。もうすでに他の3人も一緒に歩いていて危うく置いていかれるところだった。


そしてそのまま先へと進んでいき、近くにエレベーターが見えてきたところで隼也が立ち止まり、それに合わせるように俺たちも立ち止まった。


「一階には服とか売ってないし、とりあえず上にいかねーとなー」


「そうみたいね。じゃあ私たちはエレベーターで行くから、隼也はそこの階段できてね」


「なんで俺だけぇっ!?」


 隼也が振り返ったときにはもう遅く、隼也以外…俺を含めた4人の乗ったエレベーターの扉は既に半分ほど閉まっていた。

 隼也が何か言おうと口を開こうとするが、それを抑え込むように桐乃が口を開く。


「だってさ〜、隼也いると暑苦しいじゃん!というわけで、じゃね〜」


 桐乃が言い終わると同時にエレベーターの扉は完全に閉まり、隼也1人がエレベーターの前に取り残される。


「うっ、ウソだろぉぉぉぉ…」


 …エレベーター越しに隼也の消え入るような声が聞こえてきた。

 実際、隼也が取り残された理由は暑苦しいとかそんな理由ではなく、ただ単に面白そうだったからだろう。

 だって、梓と桐乃の顔が怖いくらいニヤニヤしてるし…、しかもエレベーターの階は2階ではなく3階に行くようにしてある。

 だいたいこういうときにいじられるのは隼也である。まあ、仕方ないよね。いじりやすい性格してるし。

 俺ははぁ…とため息を吐くと「押すんだったら3階じゃなくて4階押そうよ」と梓たちと同じような笑みを浮かべながら4階のボタンをそっと押した。


 …そして、その頃、隼也は無駄に大きな足音をたてながらエレベーターのとなりにある階段を上がっていた。顔についている頬は河豚ふぐのように膨らみ、力一杯握っているせいか腕が少し震えている。


「あの4に…しおちゃん以外は絶対許さねぇからなぁ…。毎回毎回俺だけいじりやがって…俺はいじられキャラじゃねぇし!!いじられてるけどいじられキャラじゃないし!!」


そんなことを言いながら階段を上がっていき、2階に辿り着いた隼也は少し急ぐようにしてエレベーターのほうへ移動していった。が、そこで立ち止まり、握っていた手の力が更に強くなる。


「あ、あ、あいつらぁ…!!ゆ…許さぬ。絶対に許さぬ」


隼也の目に映ったのは、2から3へと点滅して変わっていく、エレベーターの階を表す数字であった。



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