終章『幸せの形』
夢、なのかな……?
夢かどうかはわからない。
でも夢でも何でもいいってそう思ってしまうくらい幸せだった。
あたしはお兄ちゃんと二人で、クリスマスのイルミネーションに彩られた煌びやかな街を歩いている。ちょっと目を離すと、お兄ちゃんはすぐ先に行っちゃうから、あたしはギュってちゃんと袖を掴んでるの。
「ねぇ、お兄ちゃん? どこ行こっか?」
あたしが笑顔でお兄ちゃんに問いかける。
「お前の好きなところでいいよ、カイ」
お兄ちゃんが名前を呼びながら、頭を撫でてくれる。あたしは嬉しくて、もっともっとっておねだりをする。お兄ちゃんは、めんどくさそうな表情をしながらちゃんとあたしのお願いを聞いてくれる。
すると向こうからキリエさんとレン君がやって来て、手を振ってる。あたしたちも手を振って二人のほう走っていく。
キリエさんは会うなりいきなりお兄ちゃんにキスした。
「ちょっと! キリエさんっ!」
「まず最初のクリスマスプレゼント! どう嬉しい? マキナ?」
「な、べ、別に……」
お兄ちゃんは顔を真っ赤にしながら、俯いてる。ほんとは嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、キリエさんに気付かれまいと必死に隠しているのは誰が見てもわかる。
あたしはなんだかむかついて、お兄ちゃんの足を思いっきり蹴ってやるの。「痛ぇな!」なんて言って怒るお兄ちゃんだけど、あたしはもっと怒ってるから許してあげない。
「あらあら、カイちゃんはご機嫌ナナメなの?」
「ふんだっ!」
あたしは口を膨らませてキリエさんと睨みあう。そんなあたしとキリエさんを見てレン君がなんだかオロオロしてる。
すると、今度お兄ちゃんがあたしに、
「ほら、これやるから機嫌直せよ」
お兄ちゃんがあたしに紙袋を渡してきた。中身をみるとマフラーが入っていて、あたしがずっと欲しい物だった。
あたしはものすごく嬉しくて、思わずお兄ちゃんに抱きついた。隣でレン君も同じようにプレゼントをもらって抱きついていた。
恥ずかしいからやめろ、なんて言いながらあたしをしっかり受け止めてくれるお兄ちゃん。
離れろって言われても、あたしは離れてあげない。
だって、知ってるから、離れてしまったらもう戻らないって。
絶対に届かないって。
たまにはわがまま言ってもいいよね?
幸せになりたかった。
あたしは、ただ幸せになりたかったんだ。
贅沢は言わないよ。
ただ、どこにでもあるような普通で平凡な幸せ。
自分の大切な人がそばにいて、辛い時には肩を寄せ合って、悲しいときには支え合って、変わり映えのしない日常を生きていく。
そんな幸せが欲しかった。
でもね、たった一つだけ言えるよ。
どんな辛い思いをしたって、苦しい思いをしたって、これだけは変わらないんだ。
これだけは、これだけがあたしの中にある真実なんだ。
大好き、大好きだったよ、お兄ちゃん。
これは夢か幻か。
生と死の狭間で見た、幸せな金色の夢現。
† †
もう何度繰り返しただろうか。
途中で回数を数えることすら放棄した。何度やっても答えは同じだった。同じ日、同じ場所、同じ時間に失敗した。それも必ず同じ人によって。
何度繰り返してもそれだけは変わらなかった。
カイと一緒に生きて行きたいだけだったのに。大切な人と幸せで平凡な生活を送りたいと願っただけなのに、何故、世界はこうも俺を否定するのか。
一体、どこで間違えたのか。
もう考えることすら放棄した。自分が信じて、突き進んだ道。カイを取り戻し、こんな汚い世界ではなく、二人で新しい綺麗な世界を生きて行きたいと思った。そのためには何でもした。
なにがいけなかったのか。
もう、なにもわからない。
どこにじぶんがいて、
じぶんがなにをかんがえてえているのか。
「……お兄ちゃん」
声が聞こえた気がした。
「もう、大丈夫だよ。お兄ちゃんは頑張ったよ」
とても温かかった。
とても優しかった。
とても懐かしかった。
梔子マキナはまどろむように、そっと目を閉じた。
《完》
終わる世界の、君と僕 炭酸。 @pokoteng_maaaaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。終わる世界の、君と僕の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます