灼ける日と麦茶
雨昇千晴
灼ける日と麦茶
北国出身の友人がとある地域へ行った時、あまりの暑さに「ここは人の暮らす場所ではありませんっ」と訴えたことがあるらしい。
そこよりもさらに南にある私の故郷、兼現住所には、夏場には絶対に来てはならないとよくよく友人に言い聞かせている。
何せ広島の夏は暑い。瀬戸内気候が穏やかなんて嘘だろう、と言いたくなるほど身が焼ける。むしろ焦げる。日々家と会社の往復しかしていない私でさえ、袖の切れ目で皮膚の色が変わる。おまけにほとんど日々快晴、おかげで夕焼けは毎日見事だ。たぶん朝焼けも見事だろう。たまには曇れ。
「ああ、麦茶冷やしとかなきゃ」
水出しパックをボトルに入れて、冷蔵庫放置で30分。簡易なおかげで作り忘れもよくやるけど、明日は絶対かかせない。
大きなグラスをきれいに洗って、くもりのないようにきれいに拭く。白い紙を敷いた上にそれを載せて、明日の準備は完了だ。
――広島には、ひとつの都市伝説がある。どれほど水不足に陥っても、平和祈念公園の噴水は止められない、という噂だ。
あの日、一瞬で全てが更地にされ、灼け爛れた皮膚をひらひらと揺らし、業火と熱波の中で渇きを訴え、水を口にしては死んでいった人で川が埋まった、八月六日。
彼らがせめて、尽きることなく水を飲むことができるように。そう願われて、公園には大きな噴水が設置された。不足時でさえそこに流れ続ける水は、祈りであり、鎮めであり、怒りでもあるのだ。
そんな話を祖母に聞いて以来、黙祷前に冷えた麦茶を1杯用意するのが癖になった。
何となく、水ばっかだと飽きるんじゃないかなって。あと熱中症怖いし。
脳味噌茹だるとかそれ以前の問題の死者たちだから、そんな配慮はいらないのかもしれないけれど。それでも明日も、冷たい麦茶を捧げると思う。
灼ける日と麦茶 雨昇千晴 @chihare
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