第326話 エピローグ

魔王が倒されたお触れが出され、しばらくの時が経った頃。


「情報にあったのは、ここら辺ですね。」

商人の娘、サラが一人歩いていた。

近くに護衛はいるが、魔物は消滅したかほぼ無害になったため置いてきている。

自分の眼で情報の真偽を確かめたかったのだ。


サラは思い返す。

魔王の話が上がった後、ヴァファール王国は一時混乱に陥った。

理由は王の逝去。


騎士団に所属した知り合いからの話では、魔王の討伐を聞いた後、

狂ったように泣き出し、それからは食事もろくに口にしなかったため、

衰弱死したという。

最後は骨と皮だけになってしまったというのに、その安らかな寝顔は

赤子を思わせるような、優し気な笑みを浮かべていたという。


王が逝去した途端、上に下にの大騒ぎが起こり、国が傾くんじゃないかと

思われた時、フィーナ王女が国民の前で、女王就任する事を宣言。

今も混乱は続いているが、徐々に収まっているように思える。

やり手の大臣が傍にいるおかげらしいが、その大臣も過労死しそうなほど

こき使われているらしい。


そのせいで事業も一時は不安定になったが、祖父と祖母が手伝いに入り、

その辣腕で経営を立て直してくれたおかげで、こうして遠出する事が出来た。


「ここですか。」

情報の場所には、町はずれに作られた大きめの家。

サラは意を決してノックする。

「は~い、少々お待ちください。」


中から少し張り気味の声が聞こえて数秒、扉が開いて中の人物と顔を合わせる。

「どちら様で――」

顔を認識された途端、ドアを閉めて鍵を掛けられた。

ドタバタと音が聞こえたので、耳を当てると会話が聞こえる。


「ど、どうしましょう!?サラさんが来ちゃいました!」

「あ~……いつかは誰かにバレると思ってたけど。」

「開けてあげたら?」

その声を確認して、懐から針金を取り出したサラは……


カチャ……カチャカチャ……カチッ!


ピッキングして中に入って行った。そこで目にしたのは五人の姿。

「久しぶりであるね。」

「元気にしていたかしら~?」

五人は元気そのものではあったが、サーシャは成長し、リュリュは人間の

大人サイズになっていた。

しかし、そんな事よりも気になる部分があった。


「……それ、何ですか?」

サーシャ以外の四人のお腹が、目に見えてわかるくらいに膨らんでいたのだ。






「お、おぉ……まさか、こんなところで見れるとは。」

「何を言っている?」

光りが収まった後、次哉の体が光り輝いていた。


「神ですら知りえないことわり。それが、今のお主を包んでおる。」

意味が分からない。

その時、俺の頭の中に何かが流れ込んできた。


”えっと、そうね。私の願いは……じゃあ、この三人が一緒に居られますように。”


……これはもしかして。

「あの泉か?」

「知っとるのか!?あれは気まぐれでな、願いを叶える時もあるが、逆に願いと

反対の事を叶えたりもする厄介な物なんじゃ。」

おい……


「一体、あの泉は何なんだ?」

「想いの概念じゃ。人々の意志や願いが集まって作られた、特別な泉。魔法も

そうじゃろ、人の精神力によって発動する。」

つまり何か?あの泉に願い事をすると、願いを叶える魔法が発動してたって

いう事か?

「ま、そういう事じゃな。叶わない場合は失敗しとったという事じゃ。」

そんな物騒な物、放置しとくなよ!


「良いではないか。そのおかげで、ほれ。」

指さされた俺の体を見てみると、どんどんと透けていっている。


「あの泉が、リュリュと言ったかの?あの嬢ちゃんの願いを叶えるために

お主を生き返そうとしておる。」

「は?」

「不思議そうな顔をされても説明したままじゃ。」

つまり何か?俺はアイツらのところに戻れるのか?


「良かった良かった。これで思い残すことは無いわい。息災での。」

そう言って手を振る神の姿が、消えていく。


目を覚ますと、俺は魔王を倒した場所に立ちすくんでいた。

そして少し遠くには泣き崩れる五人の姿。

が、アリアが俺を見つけて驚きの声を上げた。

「次哉殿!?」

「……よぉ。」

どうやら俺は生き返る事が出来たらしい。だが、一つ重要な問題があった。


スキル【冷静沈着】が消えていた――






次哉が今まで女性に迫られたとしても、あのスキルによって持ちこたえていた

部分があった。だが、もう頼る事は出来ない。

そんな時に限って、ベタベタとくっつかれると、たまったものではない。


女性陣にしてみれば、好きな相手が生きていてくれた訳で、過剰に接触したくも

なるだろうが、次哉とて健全な男子である。

ある日、ついにタガが外れ、その日から若さに任せて力尽きるまで連日連夜、

部屋にこもりっぱなしだった。


結果、

「これは……えへへっ、愛の結晶です♪」

四人全員が同時期に妊娠するという事態に陥った。


「……ずるいっ!私だって、ダラ車とか貢献したのに!こうなったら私も!」

そう言って、次哉を探し始めようとするサラ。

「残念ね~。次哉ちゃんはしばらく起きてこないと思うわよ~?」

「つぐ……?誰ですか、それ?」

頭にクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。


「そっか、ちゃんと呼べるようになったの知らないんだっけ?」

「次哉っていうのは、兄ちゃんの事だよ。」

サラは意味がよくわからなかったみたいだが、起きてこないという事の方に

意識が向いているため、理由を問いただす。


「あ~……その、ね?」

「そ、そうね。それよね!」

リュリュとフィルが顔を赤くして困っていると、スターナからフォロー?が入る。



「昨日の夜から朝までだったかしら~?初めてサーシャちゃんと

もう体力を使い果たしてるわよ~。」



首から錆びた金属音でもなりそうな動きをしながらサーシャを見るサラ。

「腰が抜けて動けないである……」

言いつつ、やけに嬉しそうな顔をしている。


大惨事になってるだろうと思ったスターナの予想通り、酷い有様だったので、

二人を起こして風呂に入らせたが、次哉は思ったより消耗していたため、

再び横になったという。


「なら、今夜は私が!」

「させる訳ないじゃないですか!さぁ、サラさんはさっさと帰って……」

勢いづいていたアリアの動きが、急に止まる。


「どうしたの?」

「……たい。」

ぼそっと呟いただけの声は聞きづらく、聞き返される。


「あの、お腹が……痛いかも……」

「「「「「え?」」」」」

アリアがお腹を押さえてうずくまる。


「あれ、ちょ、痛……いたたたたたた!」

「つ、つ、次哉ぁぁぁぁぁぁぁ!アリアが!アリアがぁ!」

「噓でしょ!?お産婆さんが、もう少しかかるって言ってたじゃん!」

「アリア、これ噛み続けるである!気が紛れるはずであるから!」

産気づいたアリアを介抱するのにみんな必死だ。


「あらあら~、最初はアリアちゃんなのね。」

「……はぁ、ちょっと待っててください。少し行ったところに私の

移動用の馬車がありますから。」





――不幸な人生を歩んだ一人の少年の、幸福な異世界人生はもうしばらく

騒がしい毎日が続く事になるだろう。

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ヤサグレ勇者の冒険記録 @zatto-konnamon

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