第325話 最後の選択?

「……ここは?」

そこは見覚えのない、真っ白い空間。

壁も果ても見えないような場所だった。


「おう、来たかの。」

「アンタは……」

自称――いや、本当の異世界の神なんだろう。

それが、俺の前にいた。

「よくやってくれたの。これで、あの娘もゆっくりできるじゃろ。」


あの娘?名前も知らないストーカー女の事か?

「違うのう。ティリアじゃよ。」

「……考えを読むな、まったく。」

俺は溜息を吐くと、改めて周りを見渡す。


「俺は……死んだのか。」

「そうじゃ。」

「そうか……」

それならここは、死後の世界と言ったところか。本当に何もないな。


ふと気になった事を確認する。

「さっき、アンタはティリアがゆっくりできるとか言っていたが、

ストーカー女に乗っ取られた事を知っていたのか?」

「あぁ、知っとったよ。」

「それなら、何故放っておいた。」

「以前も言ったはずじゃ。神は世界に手出しはしないのじゃよ。」

いくら何でも無責任すぎないか?ティリアは神から生まれたんだろ?


「仕方ないのじゃ。あの娘はまだ力が無かったから許されたが、ワシが

世界に干渉するとな――」

「干渉すると?」

「力が強すぎて、生き物の半分が死に絶える。」

何だそれは?厄介すぎるだろ。


「だが、ティリアも乗っ取られたままではない。必死に抵抗したのじゃ。」

ティリアがやった事。

時々、意識を奪い返す事が出来た時に、勇者達の冒険について本をまとめたり、

俺にスキルを覚えさせるのを忘れさせていたらしい。


「どうして、そんな事を?」

「本は魔王についての手掛かりを残すため。スキルについては、お主が

魔王に勝てる確率を少しでも上げたかったんじゃろ。」

確かに、俺が考えなしにスキルを覚えていたら、最後に【部位破壊】を

覚えられなかったかもしれない。


勇者の冒険についても、どうやら意識は取り戻したが、朦朧としながら

作成したという。そのせいで誰が見聞きしたのかわからない書き方に

なっていたそうだ。


「誰かに自分を止めてほしかったんじゃろ。」

そうだろうな。

人に体を自由に操られるだけだなんて、考えただけでも腹が立つ。

というか、あのストーカー女は、神に近い奴まで操って兄貴に会おうとか、

どれだけ執念深いんだよ。


「さて、そろそろ時間じゃ。」

「……そうだな。」

何となくわかった。

この世界に存在できるタイムリミットが近い事が。


「すまんの。本当であれば礼やらしなければいけないのじゃが、簡単に

生き返らせてやる事も出来ん。転生であれば、好きなようところへ行けるぞ?

元の世界に生まれ変わるもよし。この世界に生まれ変わるもよし。

さらに他の異世界でも問題ない。どうするかの?」

最後の選択か……



「俺は――」



答えようとした時、白い部屋が更に白く塗りつぶされたような強烈な光を感じた。

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