第324話 勇者と魔王

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

魔王が物凄い雄叫びを上げて苦しみ始める。


「から、体がぁ!コレは何だ、何でだ!みんな消えていく、消えて行ってしまう!

この方が生きられなくなる!嫌だ、消えたくない!」

みっともなく取り乱し、暴れている魔王の体から、黒い靄が吐き出されていく。


寸前で習得したスキル【部位破壊】の効果。

敵の装備を壊した際、1%の確率で他の装備を一つだけ消滅させる。

上手く発動したという事は、俺は賭けに勝ったらしい。

まさか、魔紅石じゃなく、体を動かすための負の感情とやらが装備扱いに

なってるとは思わなかったがな。


「消えてたまるか!やっと溶け合ったのに!クソッたれが!」

「よぉ。」

「! ――うがあぁぁっ!」

俺は魔王の持っていた剣を持ち、体を預けるようにして、突き刺した。

剣は魔紅石ごと貫いたが、驚くほどにあっけなく、肉や骨を分け入っていった。


「まったく……最後、スキルや……運頼みなんて……」

真っ当な勇者のやる事じゃないな。あぁ、だからヤサグレ勇者なんて称号を

貰ってたのかもな……


「あ、死ぬ、死にたく……私は俺とずっと一緒に一つに……そうか、死ねば永遠に……

ふ、ふふふ、あはははははははは!」

魔王は狂ったような高笑いを続けるが、不意にそれが止む。



「ミサンガ……悪かったな。」

たった一言、それだけを残して消滅していった。



最後の最後だけ、正気に戻ったのか。だとしたら戦ってる間の事は……

まぁ、もういいか。


体を無理やり引きずって歩こうとしたが、上手く力が入らずに転びかけるが、

「勇者ちゃん!」

それを受け止められる。


「スターナ……か。」

「酷い傷……魔法は使える!?」

俺は自分にキュアの魔法を唱えてみるが、効果は無かった。魔紅石は消えたのに

何故だろうな、やはり致命傷だったのか?

でも、心配はしなくて大丈夫だろ。


「そんな……」

集まって来ていたフィル、リュリュ、サーシャも絶望的な顔をしている。

アリアはフィルが担いでいたので、俺はそちらにも魔法をかける。

アリアを治す事は失敗する気が起きない。成功するのが、はっきりと

イメージできた。


「――かはっ!」

最初に呼吸を戻った。

時間が経つ度に血色がよくなり、傷も治っていったので、他のみんなの傷も

治していく。

必死で止められたが、今さらだ。


全員の傷を治した後、全身の力が抜けていくのがわかった。

「勇者ちゃん!」

「兄ちゃん!」

「しっかり、しっかりするである!」

「何、満足げな顔してるのよ!アンタに受けた恩、返してないんだから

死んでもいいみたいな顔してんじゃないわよ、バカァ!!」


俺のために涙を流してくれている人がいる。

この世界に来て、初めて生きててもいいと実感できた。誰かに頼りに

されたし、俺も人を信頼できるようになった。

この世界に来れて、本当に良かった。


アリアも意識を取り戻したらしい。俺にしきりに話しかけてくる。

「勇者殿、死なないで!私と結婚してくれるんじゃないんですか!?

嫌、嫌です!



――!」



「! ……初め、て、名前……ちゃんと、呼ばれたな。」

勇者はアリアに微笑みかけると、体を光の粒へと変えて、天へと昇って行った。

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