第3話 電話に出たのは誰だ?

今日はこの館の主の誕生日である。

 豪邸には二人のメイドと一人の執事。そして、お嬢様。全員で四人いる。


「いよいよこの日が来たな」

 執事のヨシノリは言った。


「一生懸命練習しました……」

 陰険メイド貞子は力強く頷く。


「みんな今日はお父様の誕生日。あれだけ練習したんだから本番もきっと大丈夫よ」

 お嬢様、アカバは言った。


「私も頑張るニャ」

 猫耳メイド、ニャンコはガッツポーズをした。


 四人はそろって玄関で主を出迎える準備をしている。今日はいつものメイド服や執事服と違い、ドレスやスーツを着ている。

 主のために小さなパーティを開くために着替えたのだ。パーティと言っても四人だけの小さなものだ。

 主は今日は仕事で出かけているが、予定ではあと少しで帰ってくるはずだ。

 しばらく玄関で待っていると、電話の音が鳴った。


ジリリリリリリイリリリリr


「お父様からかもしれない。私が見に行くわ」


 そう言ってお嬢様は電話を取りに行く。

 本来は使用人である者たちの役目であるが、今日は仕方ない。


 やがて、電話を切り、戻ってきたアカバはいつになく暗かった。心なしか、顔色も悪い。


「どうしたんですか、お嬢様? 体の具合が悪いのですか?」


「お父様の帰りが遅くなるって。パーティは中止ですって」


「え、そんなせっかく練習したのに…………」

 貞子はショックで呆然とする。


「それよりも問題はこの連絡は朝、すでに電話したことだってことよ」


「それってどういうことですかニャ?」


「つまり、朝にはすでにパーティ中止の連絡を受けていたはずなの、あなたたち三人のうち一人が、よ」


「え、パーティ中止の連絡を黙っていたんですか?」

 ヨシノリは驚いた。


「ええ、そうよ。お父様はその時、急いでいたから連絡相手が誰だったか覚えていないらしい、けど中止すると確かに伝えたそうよ。誰が連絡を受けたの?」


 アカバは疑いの目を三人に向ける。三人は互いに顔を背けたり、俯いたりする。誰も名乗り出る者はいなかった。


「朝は忙しくて誰が何をしていたなんて覚えていません……。電話に出たのが誰かなんて私には……」

 貞子はうつむいた。


「みんな今日のコンサートのために一生懸命練習していたもんね。けど、それとこれとは別よ。犯人を見つけましょう」

 アカバは言った。

「朝からみんな練習をしていて電話に誰が出たかわからないのね?」


 三人は頷く。

 主の誕生日のために三人とお嬢様はコンサートを開くことを決めて、猛練習していた。

 ヨシノリはカスタネット。ニャンコはチェロ。貞子はトランペット。お嬢様はヴァイオリンだ。


 一見、合わない四つの楽器だが一生懸命練習し、耳に入れても不快に思わない程度にはなった。

 演奏曲は聞いてからのお楽しみ、だが、主役の主人が来なければ意味がない。


「みんな服装もバッチリ決めたのに……」


 と、貞子は残念そうにしている。彼女はいつものメイド服ではなく、タイトミニのドレスを着ている。ニャンコとおそろいで、彼女たちをヨシノリも鼻の下をのばしている。

 ヨシノリは似合わないスーツ姿だ。



 そんな話をしているとアカバはあることに気がついた。

「なぞは解けた!」


 アカバは主人からの電話を受けた犯人を指さした。












***







「申し訳ないですニャ。私が電話に出たんですニャ」

 ニャンコは申し訳なさそうに言った。

「みんなが楽しみにしているので言い出せなかったニャ」


「それにしてもどうしてわかったんですか?」

 ヨシノリがアカバに聞いた。


「それはニャンコと貞子がタイトミニのドレスを着ていたからよ」


「???」

 貞子とヨシノリの頭の上にクエッションマークが浮かぶ。


「ニャンコの演奏する楽器はチェロ。股に挟んで演奏する楽器なのに、タイトミニで演奏できるわけないじゃない。つまり、ニャンコは今日、演奏できないことを知っていたのよ」


「なるほど」ヨシノリは柏手をついて納得した。

「パンツが見えるもんな」


「そういうこと」

 アカバは言った。

「ニャンコは罰として明日、一日その服装で給仕をすること」



「そんニャー」

 ニャンコの悲鳴が屋敷にこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミステリー風味のただのコメディ風味 トトが暮れ @totogakure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ