第2話 壺を壊したのは誰だ? 2
ガチャン
大きな音がお屋敷に響いた。それは危険な音。この屋敷において最も鳴らしてはいけない音だ。
急いで音の発生源に駆けつけるメイドたち。
ドアを開けると冷や汗をかいた執事ヨシノリがいた。
猫耳メイド、ニャンコはヨシノリを睨んだ。
「また壺を割ったかニャ」
「いや、ちょっと待ってくれ。壺は割れた音はしたが、実際は割れてない。その証拠にほら」
ヨシノリは部屋を見せる。
そこに壺はなく、割れたかけらも残っていない。
陰険メイド、貞子は窓から下を見るが「何もないです……。落としたわけではないみたいです……」
「ほら、見ろ。割れた壺がないんだ。壺を割ったという証明にはならない」
ヨシノリは自慢げに胸を張る。
「この屋敷で壺を割るなんて馬鹿をするのはお前くらいニャ」
大人しくお縄につけ、と猫耳メイドはヨシノリの肩に手を置いた。
「抵抗すると罪が重くなるニャ」
「本当に俺が犯人だと思うのか?」
二人のメイドに聞く。
「思う(ニャ)……」
二人は同時に頷いた。ヨシノリは自分の信頼のなさに絶望を覚えた。二人はヨシノリの退路を断つようににじり寄る。もう逃げ場は窓しかない。しかし、ここは二階で飛び下りれば骨折は間違いない。ヨシノリが困っていると助け船がやってきた。
「はいはい、そこまで」
「お嬢様! この館の主人の娘。赤色ツインテール。ツンデレ属性もち。胸が大きい、アカバ様ではありませんか!」
「……説明ありがとう」
若干引きながらもアカバは冷静に話を続けることにした。
「ところでこの部屋は何?」
「ここはアカバ様のお父様が作った北極の風景の模型ですニャ。私も手伝いましたニャ」
この辺を、とニャンコは氷山を指さして、自慢する。
「模型にしては大きくない?」
アカバが動揺するのも無理はない。そこには原寸大のホッキョクグマがそこにはいた。
他にもアザラシ、ウサギ、ペンギン、キツネ、などが原寸大のまま配置されている。バックは北極らしく、氷山の真っ白になっている。
「北極にウサギとかいるんですね……?」
貞子が聞いた。
「ホッキョクウサギよ。白くてとってもかわいいわよね」
アカバはうっとりとウサギの模型を眺めた。
「そうだニャ。割れた壺はこの中にあるはずニャ」
と、ニャンコは思いついたように言った。
「どうしてそう思うの?」
「この模型は貯金箱になっているニャ。だから中は空洞で空っぽニャ。そこに割れた壺を詰め込めばいいんだニャ!」
その話を聞き、ヨシノリは明らかに動揺していた。
「……ヨシノリ」アカバの冷たい声がヨシノリに届く。
次の瞬間、ヨシノリは逃げ出した。
「買い出しを忘れてました! 行ってきます!」
ドアを勢いよく開け、飛び出していくヨシノリをだれも止めることはできない。
「戻ってきたら問い詰めればいいニャ」
「では、模型を一つずつ確認してどれに割れた壺が入っているか調べましょう」
「ちょっと待ってください……」
アカバの提案を貞子が止めた。珍しいことにアカバは目を丸めた。
「どうしたの、貞子?」
「模型の足元は氷山を表現しているために発泡スチロールでできてます。ですから踏んでしまってはご主人様がお怒りになります」
貞子曰はく、アカバの父はこの北極の風景を作るのに一週間ほどかけたらしい。そんな時間がかかるほど凝った作りには見えないが、そうらしい。
「では、どうするの?」
「足跡一歩くらいならば余っている発泡スチロールを使えばごまかせます……」
「けど、それだと模型の内一つしか取れないニャ」
「……ヨシノリは発泡スチロールに足跡をつけないでどうやって模型の中に割れた壺を入れたのかしら?」
足を踏みいれれば跡が残る。それを辿れば壺を入れた模型を見つけられると思ったのだが、足跡は一つも見つからなかった。足跡を埋めてごまかした後もない。
「投げたんじゃないでしょうか? 壺を入れた模型を投げ入れれば足跡をつけずに置けます……」
「ああ。なるほど。つまり、ヨシノリが壺を入れた模型は元々この北極の風景には入ってなかったのね」
アカバは柏手を打つ。
「謎は解けたわ!」
***
ヨシノリが帰ってくると割れた壺が玄関に丁寧に置かれていた。
その隣にはペンギンの模型が置かれている。
「もうしわけございませんでした」
ヨシノリはその場で土下座をし、謝罪をする。
「ヨシノリ、覚えておきなさい。北極にペンギンはいないのよ」
アカバは満足そうに言った。
***
「お父様。どうして北極の風景を作った部屋にペンギンの模型が置かれていたのですか?」
「寒いところと言えばペンギンだろ? あれは最後のメインに取っておいたんだ」
この館の主人は不思議そうに言った。
アカバは頭を抱えた
「―――お父様。北極にペンギンはいません」
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