第2話
俺はさっきまで銀行強盗が発生した銀行に居たはずだ。犯人も制圧したし、後は事件解決を待つばかりだったはずだが……
なんで真っ白な空間に、俺とジジイの二人が居るわけ? ていうか、これってなんてテンプレ?
んんん? まぁこの手のお話も嫌いじゃないから予測はつかない事はないけど、こういうのって普通死んでから来るんじゃないのか?
「うむ、その通りじゃな」
「……… ふむ、テンプレ通り心の声は読めちゃう訳ですか。出来れば詳しい説明を貰いたいのだが……」
「ほっほっほ。 お主は妙に達観しておるの」
「ラノベなんかじゃよくある設定ですし…… で、普通は死んでからこういう世界に来るんじゃないんですか?」
「その通り。お主は死んだからここに来た」
へえー俺死んだのか
「………え?」
俺、死んだの? 全然記憶にないんだが……
「まぁ記憶にないのは仕方がないの。なにせ狙撃で頭が吹っ飛んだからの」
「はぁ? 狙撃? なんで?」
「お主が銃を持っておったから銀行強盗と間違われたんじゃな。折角一般市民を救ったヒーローだったのにのう」
「マジかよ…… はぁ、ほんと人間ってのは死ぬ時にはあっけなく死ぬもんだな。で、俺はこれからどうなるんだ?
こんな所にいるって事は、あなたは神様に相当するって事ですよね?」
「うむ、そのとおりじゃ」
「んでもってわざわざ神様がお呼びになったという事は、何らかのお話があると?」
「うむうむ、まさしく。お主はあの場に居た何人もの命を救っただけでなく、その場にいた多くの人間に正義の心を植え付けたのじゃ。しかもあの中には近い未来に千年に一人の天才科学者と呼ばれ、人類の科学を大いに発展させた人物も含まれておる」
「へぇ……」
「それでじゃ、最近の下界では『ちーと』とか言うのが流行っておるらしいの。お主も割と好きなようじゃし、今回のご褒美に人生一回分ぐらいはそう言った遊びを体験させてやろうかと思ってな!」
「おお!マジですか…… テンプレすぎる!」
「もっとも、お主が今まで居た世界はとてもバランスが良く、あまり世界を乱したくない。なのでお主が居た世界ではなく転移先は異世界にと言う事になる」
「それは所謂剣と魔法のファンタジーという奴ですか?」
「しかりしかり」
「でもチートでそっちに移動すると、その世界が乱れて困るのでは?」
「ああ、それは大丈夫じゃ。もともと剣と魔法の世界なんて物は下級神が仕事の練習用に作るもんじゃ。ぶっちゃけ有り余ってる。お主の所為でその世界が滅びようとも全く構わん。転移先は既にデータを取り終えた廃棄待ちの世界じゃしな」
「へ、へぇ……」
「だから下界の小説にあるような世界を壊すレベルの最強の魔力だとか、最強の肉体とか、どんなちーとでも叶えてやるぞい」
「なるほど…… 一つ質問なのですが、もしかして私のようなチート転移者は多いのでしょうか?」
「む? なるほどなるほど…… そう言う心配か。
うむ、少なくともお主が生きている間はその類のモノを転移させないと約束しよう。そうでなければ後から転移した物が世界最強を望んだら約束を破る事になるからの」
「よかった。安心しました」
「うむうむ。で、どんな能力にするね?」
「どんな能力でも良いんですよね?」
「ああ、どんな能力でも良いぞ」
「では、チート能力を下さい」
「おお、良いぞ。で、どんなチート能力にするんじゃ?」
「いえ、だからチート能力その物です」
「んん?」
「えっと、説明いたしますと……」
神様にゲームの話を交え、ゲームにおけるチートという物がどういうものか事細かに説明していく。ついでに該当世界について気になる事も雑談もまじえて話を詰めていく。
「なるほどの、ずいぶんと大仰な能力じゃが…… まぁええじゃろう。しかし、となると…… お主次第ではこの世界を破棄しなくても良くなるかも知れんな」
「あはは…… まぁあまり期待せずにお願いします」
「ほっほっほ…… まぁええわい。
んでは転移するとしようかの」
「お願いします」
「うむうむ」
次の瞬間、俺は森の中にいた。そして『ステータス』と念じると頭の中に情報が浮かぶ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:神谷啓二
Lv:1
HP:15
MP:10
スキル:
『翻訳』『世界運行システム解析』『世界運行システム介入』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うん、しょぼい。流石レベル1だ。
神様がくれた予備知識によれば非戦闘職のレベル1成人男性の平均が10ぐらいらしい。
一応HPは通常よりは多めだが、警官として訓練もしていたにも関わらずこの程度なのはちょっとショックだ。
ま、取りあえずとっとと解析してパラメータを上げてしまおう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:神谷啓二
Lv:1
HP:999999999999999
MP:999999999999999
スキル:
『翻訳』『世界運行システム解析』『世界運行システム介入』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うむ、レベル1でHPが999兆とかどんな人外だよww
しかしまぁ見えてる初期パラメータ少なすぎだな。ちょっと解析して表示項目増やすか……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:神谷啓二
年齢:35
Lv:1
HP:999999999999999/999999999999999
MP:999999999999999/999999999999999
筋力:22
耐久:12
スキル:
『翻訳』『世界運行システム解析』『世界運行システム介入』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よしよし、注文通りだな」
さてと…… この状態のテストとして取りあえず木でもぶん殴ってみるか。
「おりゃ!」
ガンッ!
「つぅ…… ちょっと痺れた」
木は少し揺れたが特に変化無し、拳を見るとほんの僅かに爪で引っ掻いた様な跡があり少し赤くなっている。
本来なら素手で思いっきり木なんぞ殴れば拳の皮がズル剥けて大変な事になるのだが、HPが高い所為で全体的な変化からすれば爪で軽く引っ掻いた程度のダメージという事か。実際にHPを確認すると思いっきり殴ったにも関わらず減ったHPは僅か1で、それを確認している間に自然回復で元の数値に戻り、拳の赤みも無くなった。まぁ普通なら全力で15回も殴られれば楽勝で失神するし、こんなもんか。
次は耐久値を大幅に上げて殴ると、今度は痺れすらも全く感じない。が、木は相変わらず少し揺れるだけだ。なので今度は筋力を上げてぶん殴る。すると木は数㎝ほど陥没した。
「ん? 思ってたよりも全然ダメージ少ないな……」
まぁ俺の身体の質量と動作速度から運動エネルギーを換算すればさもありなんなのだが、予想していた結果と違いすぎる。質量をそのままでいくなら速度を上げる必要があるが、自身を解析してもRPGにありがちな速度に関わる部分が無いように思える。
一応速筋と持久筋の比率は調整可能だったが、速筋の割合を増やしても大して速度は増えなかった。ただ、速度に関わらない、万力のような力の入れ方をする場合、木はまるでスポンジを握るがのごとく容易く握りつぶせる事から筋力のパラメータ自体は正常に動作しているようだ。
しばらく考えて、ひらめいた俺はある項目を検索、追加してその数値を上げる。追加したパラメータは『賢さ』。別の言い方をすれば頭の回転の良さであり、神経の伝達速度の速さでもある。
賢さの数値を上げ、集中すると周囲の時間が止まったかのようにぬるりとした感覚になる。一流のスポーツ選手等に見られる精神が極限状態の時に周囲がスローモーションに見えるというアレだ。スポーツ選手の例なら筋力自体は変わらないため極限の集中力でスローモーションの世界に入り込もうとも身体自体はその思考に付いてこず、制御が多少細かくなる程度で速度が上がったりはしない。が、俺の場合は違う。周りがスローモーションの世界に入っても有り余った身体能力は十全に思考速度に付いてくるだけの能力を持つ。結果としてもの凄い速度で木をぶち抜くことになる。
あまりの速度でぶち抜かれたために、木、というより、周囲の空気も含めて瞬時にプラズマ化、蒸発して爆発する。一本の木をぶち抜くつもりが周囲2㎞程が一瞬にして更地に成った。
「痛って…… てか…… やべ、やり過ぎた……」
運動エネルギーがそれ相応に増えたために、こちらの受けるダメージも上がり、耐久が999兆でも痛みを感じる。
HPの数値を素早く戻して修正したあと、今度は証拠隠滅のために消し飛んだ周囲を修正していく事にする。
そう、俺のチート能力は自身に対してだけでない。解析可能な全てが対象になる。森の中で被害の無い部分を解析、データ収集し、コピペの要領で更地を埋めていった。
「ふう…… まぁ取りあえずはこんな程度で良いだろう。
さて、んじゃ本番と行きますか! チートの本領発揮と言えばやっぱ無敵コードでしょう」
一応解説しておくと、ゲームにおける無敵コードとはHPやMPの値を固定化したり、プログラム的にそもそも数値が減らないようにダメージ処理の部分をカットしてしまう方法である。解析と検証を繰り返し無敵機能を追加する。
「ま、こんなもんか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:神谷啓二
年齢:17
Lv:1000
HP:999999999999999/999999999999999
MP:999999999999999/999999999999999
筋力:999999999999999
耐久:999999999999999999999
賢さ:999999999999999
スキル:
『翻訳』『世界システム解析』『世界システム操作』
チートコード:
『無敵モード(仮)』:ON
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まぁ無敵モードっていっても暫定だけどな。今のところ状態異常の情報が少なすぎるからどの部分をパラメータ化すればいいのかハッキリしないし……
しかし、賢さのブーストは思った以上に効果が高いな。集中して解析すると一瞬で済む。うむ、これはいいパラメータだ」
ちなみに耐久力が他よりも高めなのは賢さも上げた状態で木を殴ったら、手がそれなり痛かったからである。つーか、プラズマ爆発に巻き込まれて全身に擦り傷ができた。まぁ擦り傷程度だけど。直ぐにHPの値を回復して修正しましたけどね。年齢もぴちぴちの17歳に修正しましたよん。
「よし、当座の安全(?)は確保できたし、第一村人発見イベントでも探すかな~」
こうして俺の異世界チート生活が始まったのだ。
チート活用術 腐りかけ@ @tamamo
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