過去に囚われた恋心の行方

芹澤奈々実

第1話

鬼ヶ島優子は山梨県に住む高校二年生だ。

親は農業をしており、桃を作っている。

隣家の桃白さんも桃を作っているのだが、優子の家と仲が悪い。

仲の悪さを知らぬものは、近所にはいないほどだ。

しかし、仲が悪いのは親同士だけだ。

桃白家の一人息子である力は優子と同じ高校に通っていて、年も同じである。

普段は親たちに合わせていがみあっているが、本当は仲が良い。

それどころか、付き合っている。もちろん親にバレたら別れさせられるに決まっているので、2人だけの秘密である。

友人ぐらいには話したっていいんじゃない?

チッチ。田舎のネットワークを舐めているね。子から親、親から私たちの親に…。世間は思っているよりも狭いのさ。異性と少し話しているだけでも、付き合っているのでは?と噂になる。

そのため、学校ではお互いをまるで空気のように思うようにしていた。

しかし、事件は起こった。

その日の優子は、朝から体調が優れなかった。体温計には36.4と表示されている。熱がなければ、母からは学校を休むのにGoサインはでない。優子はため息をつきながら、学校への道を歩むのであった。

えーっと、2限目はと。えっ、体育。嘘でしょ。最悪だ。女子生徒たちの声が頭にガンガンと響く中、優子は体操服に着替えた。

なんとか無事にバトミントンをし終え、教室へと向かうのに階段を上っている途中、頭がふわっとした。あれっと思っているうちに優子は後ろへと倒れ、意識を失った。

優子の記憶はそこで途切れるが、優子が倒れるところを見た生徒たちは騒然となった。

優子が倒れたということは、力の耳にも入った。力は走る。そして、優子をすぐさま抱き上げ、保健室に向かった。

幸い地面から5段目ということと打ち所は悪くなくなかったため、命に別状はなかった。

だが、問題は別にある。

あの仲が悪い鬼ヶ島家と桃白家が、助け合う?

今日の出来事はすぐさま親の耳にも入った。

親たちは私たちの仲を疑った。優子の親は優子を北海道にある祖父母の家に預けると言いだした。そんなのおかしいよ。助けてくれたのだから、普通は感謝するべきでしょ。なのに、引っ越すという話になる?嫌だ。

優子と力は、駆け落ちをすることに決めた。優子が引っ越すまでの一週間の内に、なんとか時間を見つけ出しては計画を立てた。

一週間がたち、最後に今の学校に通える日。私は学校へと向かうふりをして、家をでた。

力と最寄駅から2つ離れた駅で待ち合わせた。

いつもは教科書を入れている鞄から私服を出し、トイレで着替える。

私たちは今から東京へと向かうのだ。

家どうしの諍いから逃れて、新しいスタート。

切符を買い改札を抜けようとした時、聞きたくない声が後ろから聞こえた。

まさか!

後ろを振り向くと、力と優子の両親がいるではないか。

計画はあっけなく失敗した。親たちのほうが一歩上手だったのである。

なんと優子の鞄に発信機を仕込んでいたのだ!

力は家に連れ戻され、優子は祖父母の家へと連れて行かれた。

それから、優子は親を憎むようになる。

憎しみは日に日に成長し、殺意が芽生える。

優子は夜な夜な電気もつけずに両親殺害計画を練る。

3ヶ月後の深夜0時。

窓の外では黒い雨が激しく降り、雷鳴が轟いている。カーテンの隙間から見える優子の眼は、まるで鬼を倒しに行く桃太郎のようにギラギラと輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過去に囚われた恋心の行方 芹澤奈々実 @serizawa0326

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ