私が好きになった彼女を想って

 ストーム∨最大の必殺技、ストームフィニッシュ。

 その手順は以下のようなものだ。


1 超巨大コイルと化したスパークトルネードの中に敵を閉じ込める。

2 機体を上昇させ、スパークトルネードの上部から機体を突入させる。

3 スパークトルネードが発生させる電磁力によって、機体そのものを加速しながら降下。

4 タイミングを合わせて拘束した敵を上部へと加速。最大の相対速度を持ってして衝突させ、相手を破壊する。


 機体開発当初から組み込まれた武装ではない。当時のパイロットが戦闘中に編み出した技を、後にモーションデータとして完成させ武装として採用されたものだ。

 瞬間的な最大火力に欠けると評価されているストーム∨の切り札として、記録上は21回使用されている。

 その中でも最大の戦果と言われるのが、第三十七次最終火星軌道制圧戦における、戦艦怪獣MM-CC-10バトルシップギガントの討伐だ。

 全長5000メートルの巨大戦艦と化した宇宙怪獣を、一撃でヘシ折りながら火星の大地に叩きつけて破壊した。これが決定打となり火星宙域はスーパーロボット軍団によって奪取され、宇宙怪獣の王キングギガントとの火星超決戦への道を開いたとされている。まさに人類の勝利に貢献し、歴史を作った必殺技の一つであると言ってよいだろう。特人スパロボ好きの歴史家たちはそう評価している。


 それが、28世紀。地球上で、TOKYOコロニーを襲った活動家に向かって放たれたのだ。


 スパークトルネード上部からストーム∨が内部へと突入。凄まじい加速が機体にかかるが、機内の観夜は最低限の慣性しか感じない。パイロット保護機能が働いている。


「いっ……けっ……!」


 ストーム∨は片足を大きく前に伸ばした、飛び蹴りの姿勢を取る。足先に威力を集中させてぶつかるのだ。

 全高1200mの竜巻を、一瞬で通過する。

 衝突の瞬間すら観夜は意識しなかった。意識したのは、着地の衝撃だ。

 地上が爆発する。

 ストーム∨の激突が、街をクレーターと瓦礫の山へと変えた。

 本来なら大地を突き破ってもおかしくないが、威力は衝突寸前に低減されている。人が住む区画への被害も出ていない。


「はあっ、はあ……! やった……!?」


 観夜の眼前に映像が表示される。さまざまな角度からの衝突時の動画だ。

 超高精度の映像には、はっきりとストーム∨の衝突によってバラバラに砕け散る活動家の姿が映っていた。

 緊張していた観夜の顔に、徐々に笑顔が浮かぶ。


「やった! やったよ、せんぱ――」

『ダメ、ま――』


 ストーム∨が、空から降り注いだ黄金の光に貫かれた。

 一撃で動力部がその機能を停止する。

 更に光は降り注ぎ、全身を光が貫く。

 ぐら、ぐらと身体を揺らし、やがて倒れた。地響きを立てて仰向けになり、機能を停止する。

 光が放たれた場所……活動家が砕けたはずの空で、HYDRAが搭載された右腕だけが浮いている。

 その腕の断面からは黄金の光が伸びている。その先端は砕けた活動家の身体の一部に繋がっており……さらにその身体からも黄金の光が何条も伸びて別のパーツに繋がっている。

 やがて、光のロープを引き合うようにして活動家の身体が修復されていく。


(終わったな)


 完全に元の姿を取り戻した活動家は、空中から倒れ伏したストーム∨を見下ろした。

 完全に電磁力に囚われ、高出力シールドも間に合わなかった。だから先程の一撃を受けて砕けたのは本当だ。ただ、その程度で恒星間戦闘用兵装スターバスター搭載型宇宙戦闘機兵スペースサイボーグが活動を停止することはないというだけのこと。膨大なエネルギーが、この程度の損傷はすぐさま修復してしまう。

 活動家は飛行機能を切り、無造作に倒れ伏した巨人の上に着地する。


(さて、パイロットを取り出すか)


 必殺技を受けた瞬間に内部構造のサーチを行った。ゆえに活動家はコクピットを避けた高出力のビームで特人を無力化できたのだ。

 シールドと装甲を貫けるだけの威力が人体に直撃すれば、再生も難しい。

 活動家は直接、熱を放つ右腕を巨人の装甲に触れさせた。より正確にコクピット前面の装甲を破壊するためだ。

 その時だった。

 活動家の胸に、蹴りが入った。


「!?」


 凄まじい威力の蹴りが、活動家を宙へと吹き飛ばす。すぐさま身体を制御し姿勢を取り戻そうとする。

 できない。

 全身がエラーを吐き出し、まともに動くことができない……!


(バカな)


 高速で離れていく巨人の姿を、活動家の機械視覚がズームする。

 その胸から、足が、生えている。

 人間の足だった。

 活動家を蹴った、その足だ。

 装甲を突き破りながら一撃を加えた足が、ふたたび装甲の中に戻る。

 と、ほぼ同時に装甲が左右に割れた。力まかせに穴を広げた、と言ったほうがいい。その穴から現れたのは、軍服の女だった。

 しかし先程まで追っていた管理官の白い軍服ではない。デザインは似通っているが、その色は上下ともに黒。そしてそれを纏った女の髪と目も、また漆黒。


 暁ふらむがそこにいた。

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超未来空想科学活劇百合小説 フレイムハートの純情 NS @jetjoe

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