宇宙戦争用サイボーグ VS 対宇宙怪獣用巨大ロボット
打ち上げられたストーム∨が、拳を振りかぶる。
右拳を打ち下ろすことで、空気の壁が破れる音がする。高速で繰り出される巨大な拳撃。……その拳が腕を離れて、飛ぶ。一瞬で拳の断面が変形し、ロケットブースターへと変わった。
噴射。
特人の基本兵装、ブースターパンチだ。
音速の拳がさらに加速を得て、地表へと向かう。その先にいるのは、……水美だった。
巨拳が見上げる水美と周囲の地面に直撃し、砕く。振動と衝撃で周囲の建物が崩れる。
活動家はストーム∨が拳を繰り出した瞬間に後方へと跳躍し、その場にはいない。
(管理官ごと潰すとはな)
活動家は苦々しく考える。
自分の目的が管理官であると知られたがゆえの攻撃だろう。咄嗟に防御ではなく、回避を選択してしまった。
戦闘服を失っていた彼女は恐らく拳の下で潰れた血肉となり、再生しない限り、自分に利用されることもなくなったというわけだ。多少壊しても後で再生すればいい、と割り切っているのは相手も同じだったのだろう。
ならば、相手の抵抗戦力を全て破壊するまで。
活動家は右手をストーム∨に向ける。一射で蒸発させるつもりで出力を上げる。その瞬間、通信が入る。ほんの一単語だ。
――有人機
「……!」
すでにストーム∨は左腕を振り上げている。豪腕から飛翔する剛拳の一撃。
さらに右腕。喪失した手首の先が、空間から染み出すように現れる。
空間的に収納した手を、『装填』したのだ。
7連打。
降り注ぐ巨拳を、活動家はかろうじてかわす。8つの拳が大地にめりこんだ。
活動家は怒りを覚える。
この状況で有人機を出す意味はひとつ、パイロットの命を盾にしたということだ。
高威力の反撃を封じ、戦闘を有利に進めるためだけに必要のない人間を乗せる。
自分たちの戦いを経て、そんな愚行から人間は解放されたのではなかったのか。
(こんな戦術を選んだのは、誰だ)
あの水色の髪の管理官か?
だとすれば拳に潰されたのも自業自得だ――あるいは自作自演か?――そう考えて拳に意識を向けて、気づいた。
隠蔽されているが、7つの拳の中に微かなエネルギー反応がある。
大地を大きく揺らして、7つの拳が自らが作り出したクレーターから跳躍する。五指を備えた手が変形し、7機のずんぐりとした巨人となっている。小指から人差し指は手足に、その親指は肩に装備された砲身と化していた。
拳そのものが自動戦闘機だったのだ。
着地によって陣形を組んだ巨人たち。7つの砲口が輝き、プラズマ弾を発射する。即座に活動家は左手から前方にシールドを発生させ、さらに右腕から一射を返した。
ほぼ同時に互いの射撃が着弾。
活動家の強固なシールドは損傷がないままプラズマ弾を受け止め、微かな熱波も届かせることはない。
逆に活動家の放った光条が、最も遠い位置にいた自動戦闘機をシールドごと貫いた。
さらに貫通した光条はいくつにも分裂して反転。残りの6体に襲いかかる。しかし、これは各々のシールドに弾かれて上方へとそらされる。弾かれた光条は死んで、そのまま虚空へと消えた。
(いまの出力で仕留められないのか。頑丈だな)
残った6体が活動家を囲むように移動する。ずんぐりとした見た目に似つかわしくない、四本指を使った、猿のごときすばやい動き。
2体が冷凍光線を放ち、2体が超音波破砕砲を轟かせ、2体が電磁ネット弾を撃った。
それぞれの弾速の違いから、わずかな時間差で着弾する。冷凍光線と超音波をシールドで防ぎ、電磁ネット弾は二条の光線が蒸発させる。
斜め上に放たれた二条の光線がそれぞれ三条に分裂し、今度こそ6体を貫く。融解して地面に散らばる拳型戦闘機。
次の瞬間、巨大な足が活動家を踏み潰した。
「やったか!」
ストーム∨の操縦室で叫んだのは、黒藤・観夜だ。
自動戦闘機を囮にして、ストーム∨の必殺技、スパーク・トールハンマー・キックが完全に入った。かつて、第四次ドバイ
叫んだ観夜は操縦席でヘルメットを被り、パイロットスーツに身を包んでいた。
二本のレバーを掴んだ状態で座り、その足はそれぞれペダルを一つずつ踏んでいる。ストーム∨は、二本のレバーと二つのペダルで操作するのだ。
なぜそれだけで人型の機械を操作できるのか、というと、つまり優秀なAIが搭載されたOSのおかげである。学習によってパイロットの思いどおりに動く
『油断してはダメよ』
「はっ!」
耳朶をなぜた美しい声に、観夜は反射的にレバーを引く。
ストーム∨が後ろに飛んだ。その瞬間、上空へと光条が走る。もし後ろに飛ぶのが遅れていれば、脚ごと機体を貫かれて擱座していただろう。
「あっぶな……! ありがとう、先輩!」
『気をつけてね』
光条の発射地点へとモニターの映像が拡大される。……何もいない。
「え、なんで……そうかッ!」
ストーム∨が再び跳躍。砕けた地面から、光が天へと走る。
「地面越しに撃ってる……! 地下!?」
ストーム∨のキックを、地に潜って避けたのか。そのまま地下から光線で攻撃してきている……。
『そうとは限らないわ』
「……そうだ、曲がるビーム!」
曲がり、うねり、分裂し、自在に敵を追いかけるビーム……すなわち、
その原理は、ビームを構成する熱粒子を構造化させ、疑似生命体と化して自らの意志で敵を追跡させるという……観夜にはわけがわからないほど高度なものだ。熱粒子ってなに? 光子とは違うの?
……とにかくそれが、全力ならば太陽をもブチ抜く出力で襲いかかってくる……!
(地上のどこかから撃って、地中を通り攻撃している可能性だってある……! それに、地中から撃ってる可能性も消えてない!)
地表戦におけるHYDRAの恐ろしさは正面戦闘での使用ではなく、使い手がその姿を隠蔽した際にこそ発揮される。いつ、どこから、どのように飛んでくるのかわからない光線で一方的に攻撃されるのだ。
もう一条の光が、大地の中から現れる。今度はストーム∨の後方だ。
「くっ!」
かろうじてセンサーが地中の温度変化を捉えていた。掌を広げてHYDRAの一撃を受け止める。集中させたシールドに弾かれた光は死んで、つまり疑似生命体ではなく、ただのビームとなって空へ消えた。
(こんなにバンバン撃って空に飛ばしてるなら、外の人たちだって気づいていいようなものなのに!)
高出力ビームの存在すら隠蔽しているということなのか。瞬間的なタイミングとはいえ、どれほどのセンサーを誤魔化せばそのようなことができるのか想像もできない。あるいは、受け取る側にウイルスを……?
さらに地中に温度変化。
感知した総数は……百。
「げ」
『がんばって防いで』
全方位の地中から百本の光線が同時に飛び出した。地表を溶かして突き出る、多頭蛇の頭。
「こんなものおおおっ! シールドォ、ストーーーーーーォム!!」
ストーム∨の周囲を、瞬時に光の嵐が覆う。
電磁波と砕片となったシールドで構成された嵐が、百条の光線をすべて跳ね返す。
まあ音声入力ではないので別に叫ばなくてもいいし、そもそも叫んだ時にはすでに発動しているのだが、観夜の中ではスパロボオタクの血が騒いでいた。
スパロボを扱ったフィクションでは大抵叫んでいるし、現役当時のパイロットも叫ぶ人は多かった。今は観夜にもその気持ちがよくわかる。叫ぶのは気持ちいいし、なんだか勇気が湧いてくる。
百のビームを防いだ観夜の心に、わずかに余裕が生まれた。
(ストーム∨の最高出力は平均的な
つまり相手が太陽系の3割ごと吹き飛ばす気にならない限りは、まだイケるということだ。少なくとも勝負はできる。勇気づけられる。
『いい調子よ。このまま反撃しましょう』
ふらむのクールな声にも、昂りのようなものが混じっているように思えた。
「でも敵の位置が!」
『ここよ』
モニターの一点にマーカーが点灯する。ストーム∨の後方、先程の百条の光線で破壊された民家のひとつ。
なぜ、と問う前に反射的に撃つ。
叫ぶ余裕はない。
ストーム∨は、胸に取り付けられた巨大な∨字の金属装甲をつかみ取り、投擲する。
回転しながら空中で変形した金属装甲……否、ストームブーメランが、電磁的に加速して民家を直撃した。壮絶に瓦礫を撒き散らしながら吹き飛ぶ地面から、跳躍する影。
「ホントにいた!」
『今よ』
「よおし!! コール!!! スパアアアァク!!!! トルネードォオッ!!!!!」
観夜の叫びに応えるように(実際はその前に起動している)、大地に突き立った円形のストームブーメランが、ふわりと浮く。空中の活動家を補足している。
それに気づいた活動家が動く前に、ストームブーメランは高速回転。大気のバランスが一瞬で崩壊し、黒い嵐が立ち昇り活動家を飲み込む。
竜巻。否。猛烈に荒れ狂う雷雲だ。
ストームブーメランから散布された疑似雷雲発生粒子と、小型電磁波発生装置。竜巻そのものが巨大なコイルとして働いた。
形成した竜巻によってその磁力を最大限に作用させるポイントは、当然計算されている。中心の活動家の全身が、引き攣れるように引っ張られて静止した。
(効いた! 自動戦闘機の攻撃で、電磁ネット弾だけは光線で撃ち落としたのはやっぱり!)
『終わらせて』
「はい! ストオオオオオォオオオォオォム!!!! フィニィイィィイイィッッッッッ!!!!! シュ!!!!!!」
ストーム∨、最大最強の必殺技がいま、放たれる……。
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