第4話
手荷物を地面に下ろして、俺はベンチに座った。
昼前の公園。ベンチに座り空を仰ぎ見る。天気は快晴、葉の少ない枝を通して見た空は青々と広がっていた。
最寄りのスーパーの早朝セールに赴き主婦と格闘ののち、買いに買った食料を大袋二つに詰め込みスーパーとアパートの間にある公園で一息ついたところだ。
視線を下げるパンパンに詰まった買い物袋を見る。何せ先日から口が1つ増えたものだから、食費もその分増えてしまい、スーパーの特売は見逃せないイベントとなった。
「あー! ボールがー!」
子供の声が聞こえ、顔を上げる。丁度ベンチの向かいの木に、小学生ぐらいの子供が木にボールを引っ掛けてしまったようだ。
木は小学生が登るには大きく、引っかかったボールを取れずに困っている。
取ってやろうか、いやしかし声かけ事案として扱われると、厄介だ。今現在無職だと通報されたら目も当てられない結果になる……。
うじうじと悩んでいると、子供たちの前に大人サイズの人影が現れた。
エプロンを着た金髪の女性、恐らくメイドさんタイプの『おねえさん』だ。
柔らかそうな髪をフワリと風に揺らし何処からともなく現れ子供たちの前に立っていた。
見た目は人間と変わらない。それでも俺たち人間はそれが『おねえさん』だと、同類じゃないと分かる。それが腕一本でも、物陰からはみ出したお尻だけでも、分かる。
俺は視線を足元に落として昨日見た『おねえさんwiki』の記事を思い出そうとしていた。
wikiによると二つの説があるそうだ。
一つは、俺たち人間が本能的に同類かそうじゃないかを識別している説。
もう一つは、『おねえさん』サイドが識別のための信号か何かを出している説。
はっきりした結論は出せていないらしいが、今は後者が主流だという。
昔から『おねえさん』は研究されているがここ最近で進展はないらしい。
個体差はあるが総じて自由気ままで何処から来ているかは分からない。仕事をしているようだが、労働に勤しむ姿は見られない。捕まえても腕力で脱出するか、目を離した隙に消えている。
要するに、人間には彼女らをどうにかする事なんて出来ないんだと思う。
得体の知れない存在だが、人間とは良き隣人として、同じ空間で生きている。
現代では、『おねえさん』は人口が過密な地域でのみ存在している。彼女らは田舎には出現しないのだ。
きっと神様が、増えすぎた人間にイタズラをしているんだろう。
突然、わーっと歓喜の声が聞こえ俺は再び顔を上げた。
「ありがとー!」
ボールを持った子供たちがお礼を言いながら手を振っている。
金髪の『おねえさん』はもうそこにはいなかった。
本当に神出鬼没だ。
(さて、と)
十分に休憩は済んだ。
俺は立ち上がり、家今家で留守番中の同居人の事を考えた。
彼女は今何をしているのだろうか。
『おねえさん』は何らかの職に就ていると言われている。
同居を始めて数日、彼女は一歩も家から出ていない。
彼女もそろそろ仕事に行き始めるだろうか、などと無職な俺は考えていた。
無職だが、お姉さんを拾った ぶんぶん丸 @yuugiri
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