第3話

 頭に当たる柔らかい感触で目が覚めた。


 いつの間にか寝ていたようで、柔らかい布団の上に顔を突っ伏していた。

もう日が昇り、外からはスズメの鳴き声が微かに聞こえる。


 寝返りをうち仰向けになり見ると『おねえさん』が上体を起こし、俺の頭を撫でていた。

 窓から射し込む太陽光で、逆光になって表情は見えない。

 頭に当たる感触は『おねえさん』の手の平だったのか。


 という事は、今俺は『おねえさん』に膝枕をして貰っている形になる。

 そう言えば、布団の下に確かな弾力がある。ふかふかと言うよりは、ムチムチだ。(太ももだ!柔らかい!太ももだ!)

 ああ、もうしばらくこの状況を、この感触を味わいたい。

 俺のそんなささやかな望みは、次の瞬間に叶わないと分かった。


 ぺしっ。


(イタッ)

 頭頂部に『おねえさん』は平手を打ち込んできたのだ。


 ぺしっ、ぺしっ。


 次は2回連続。流石に目が覚めた。

「邪魔だ。起きろ」もしくは「どけ、重い」と言っているように感じる。

 そう、俺たちは付き合ってる訳じゃない、恋人じゃないんだ。膝枕で頭なでなでなんて甘い状況では無い。

 恐らく、頭を揺すって起こそうとしていたんだろう。

 夢見がちな自分に恥ずかしくなり耳が熱くなるのを感じた。

それはそうと、体調はどうだろうか。気分は?

昨夜の調子じゃ、二日酔いになっていてもおかしくは無い。

それ以前に『おねえさん』も二日酔いになるのだろうか。

俺は体を起こし『おねえさん』へ顔を向けた。


『おねえさん』と目が合った。

 赤茶色の意思が強そうな瞳、張りのある少し色白の肌、外ハネのブラウンの髪はキラキラよ朝陽に輝いている。

(……はぁ)

 俺は心の中で溜息をついた。真っ直ぐな瞳で見つめられて、動けなかったからだ。蛇に睨まれたカエル、と言うより、メデューサだろうか。

その時、俺は、朝陽の中の彼女に、見惚れていた。


「おはよう、ございます」


当然、返事は無い。『おねえさん』は言葉を話さないからだ。


『グゥウウウ〜!』


沈黙を破る腹の虫が室内に響く。

音の主は俺では無い、『おねえさん』だ。

昨夜、胃の中の物を全て出し切ったから胃の中は空っぽだろう。

ああそうか、俺を起こしたのは、「腹減った、ごはん」と言う事か。


『グゥウウウウウ〜!』


再び大きな腹の音。『おねえさん』は何故か得意げな表情だ。(大きな音が鳴ったからか? それとも習性?)


(まあ、元気そうだからいいか)

『おねえさん』は得意げな表情をしているが、目で訴えてくる「お腹すいた」と。


「じゃ、ご飯にしますか」

時計をちらりと見る。午前10時、遅めの朝食だ。


ぐー


今度は俺の腹の音だ。

その音がどうやら『おねえさん』に聞こえたのか、口元が微かにニヤリと笑った。

中々に愉快な性格の『おねえさん』のようだ……。


そんな『おねえさん』からの視線を浴びながら、俺は朝食の準備を始めた。

(食パンがまだあったよな……)


 この日から、二人の『共同生活』が始まった。

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