第2話
大学時代から住んでいるこの部屋、ワンルームのアパートが俺の唯一のプライベート空間だ。
引っ越してきた当初は俺一人では広すぎるくらいだと思っていたが、それが今ではとても狭く感じる。
家具や私物が多いわけではない。
家具なんて部屋の真ん中に置かれた四角いテーブル、東側の壁には液晶テレビ、西側の本棚には漫画が数十冊、タンスは無く衣類はすべてクロゼットに収納済み、北側には布団が敷いてあった。
俺は狭さの原因の横に座り顔を覗き込む。布団から頭だけだし、赤い顔をして『う~ん』と苦しそうにうめき声をあげていた。
眉間にしわを寄せて、せっかくの美人が台無しだ。
俺は結局、この『おねえさん』をゴミ捨て場から自室に運び込んだ。
肩に担ぎ、背中に当たる温かく柔らかい感触を意識せず運ぶのは実に大変だったし(そのお陰か重さを感じずにすんだ)、女性型の物体を運び事に何かしらの背徳感を感じてた。
そうか、この部屋に初めて『異性』を連れ込んだのか。
学生時代にも、社会人をしている時も成し遂げられなかった偉業を、遂に(遂に!)。
ようこそ異性、いや『おねえさん』。そういえば、何と無く、良い匂いがする、気がする。(実際は酒臭いが)
感慨深く、目の前で眠る史上初の来訪者を眺めていると、急にそいつは目を見開いた。
ぱっちりとした大きめな目、赤茶色の綺麗な瞳。(思った通り、美人さんじゃないか)
だが俺は見惚れることが出来なかった。何故なら俺の無意識が警鐘を鳴らしたからだ。
これは、そう、飲み会の後、泥酔した後輩(男)が泊まりに来た時の……。
(ああ、まて、まてまてまて!)
「ちょ、まっーー」
『ゥ、ヴェ〜〜!』
「ああああああああああ!」
『おねえさん』は上体を起こすやいなや、盛大にゲロをぶちまけた。
吐く直前に上体を捻り横を向く。枕の横に吐瀉物がびちゃびちゃと落ちていった。
ツンと酸っぱい臭いが部屋に充満して行く。さっきまでの酒の匂いの方がまだマシだった。
出す物をしこたま出した『おねえさん』はどこか誇らしげな表情を一瞬見せて、バフっと枕に頭を沈め再び眠り始めた。
一瞬の出来事に俺は見守ることしか出来なかったが、鼻を突く酸っぱい臭いにはっと我に帰る。
ああ、雑巾とバケツがいるな。
ゲロを片付け、額に濡れタオルを置いてやった。
本当は換気したかったが外は寒い、消臭スプレーで急場を凌ごう。
吐いたおかげか、生来の回復力か『おねえさん』も寝顔は幾分か楽になっているようだ。と言うかどこか満足気な表情だ。
あれだけのモノを吐き出して、後輩ならぶん殴っている所だが、こいつはどこか憎めない(綺麗? 可愛い? 異性? だからかもしれないが)、今回は許す事にした。
俺は毛布を羽織り、『おねえさん』の横に腰を下ろし時計を見る。
午前2時、流石に眠い、疲れた。
よく分からないこいつをどうするか、明日朝にでも、考えよう。
取り敢えずwikiでも探して、もし同居するなら大家さんに許可取って、メシも増えるかな、そもそも元気になったら出て行くかも……。
…………。
……。
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