第185話 船乗りのヨメ

 事故で負傷しましたジャイ子は退院した一週間後に三角巾がとれました。

 のびのびと腕が動かせるようになって、嬉しそうなジャイ子。

 ずっと腕が固定されていて煩わしかったやろうね。狭いベッドの上でよく10日間も我慢したね。えらかったね、ジャイ子。


 入院生活中にすっかりワガママになってしまったジャイ子ですが、三週間後には保育所にも復帰しました。その後二ヶ月は通院しましたが、頭の方も腕の骨も問題なく完治しました。

 成長期に腕が伸びるかどうかは、その時になってみないと分かりませんが、病院の先生の話によると大丈夫だろうということです。


 ジャイ子は今でも車をすごく怖がります。トラウマになってしまったようです。

 道を歩いているとき、車の音がするとびくりと反応して道の脇に避け、みんなに「危ないで」と声をかけます。用心深くなったのは、いいことだと思いますが。


 次男の出産が遅れたのは、事故に遭って外の世界をこわがっちゃったからかもしれないな、と考えたりしました。

 もしくは、ドタバタが過ぎるまでお腹の中で待っていてくれたのかもしれません。だとすると、空気を読んでくれるとてもいい子です。――




 次男を出産後、夜中、子供三人が布団に転がっている光景を見て、私は何度もなんともいえない思いにとらわれます。


「三人も居るで」


 隣の主人に言います。


「三人も居るよ」


 主人も答えます。


 本当に、皆が誰一人欠けることなく無事で良かったと思います。


 私は昔から子供は三人産もうと思っていたのです。

 何故かというと、不慮の事故で子供時代に亡くなってしまった親戚の例を知っていたからです。

 人間、いつ何時、何が起こって死んでしまうかわかりません。

 だから、ひとりっ子だけにはすまい、と。

 唯一の子供を喪う悲しみには耐えられないと思ったからです。

 三人くらい産んでおけば、安全弁だろうと。

 それでも、今回の件で思い知りました。

 子供が何人いようがそんなことは関係なく、事故等で死ぬときは全員があっさり死んでしまうこともあるのだと。


 主人に、もしそうなっていたらどうした? と聞いてみました。


 たった一人残されて、気が狂っていただろう、と主人は答えました。




 主人は会社を退職しました。



 今回の件で心が折れたと。


 緊急下船したときに、会社に電話しました。


 家族に何かあったときに、すぐそばに駆けつけることができないからだと。







 ……まさかの船乗りのヨメ終了。――


























 ……それから、二ヶ月後。































 主人は今、別の会社の船に乗っています。

(退職した翌日に次の会社に入社した)





















 船乗りのヨメ生活は、まだまだこれから始まったばかりなのです。――







※ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございました。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

船乗りのヨメ 青瓢箪 @aobyotan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説