現役プロレスラーが元禄時代にタイムスリップしてしまう場面から始まる、唖然としてしまう舞台設定。
古橋ケンタは愚直である。真っ直ぐである。口下手であり不器用でもある。
そして何より、プロレスラーなのだ。
時代は未だに刀や暴力で一部分は支配されている。徒手空拳でケンタは立ち向かい、その大きな背中には紛れも無いオトコの姿を感じる。
莫迦じゃないかと言いたくなるくらいに熱血。
権力に取り憑かれた悪臣を成敗する様は、完全無欠な勧善懲悪。
それでいいんです。熱血プロレスラーが悪を砕く、爽快感。
どこかに置き忘れている漢としての魂が、どこかで必死に奮っていました。
ぶっちゃけ読んでて泣きました。感動なんてもんじゃない、俺だって男だからさ。
美学と意地。たったそれだけの男魂。存分に楽しませて頂きました。
古橋ケンタが江戸時代にタイムスリップして、バッタバッタと悪人共をなぎ倒す。ここまではよくある異世界トリップもの。タイトルもいかにもな感じです。
しかし、軽いタイトルだと侮ることなかれ。
読めば読むほど、物語が『生きて』くる、登場人物が『生きている』様に錯覚させる構成に、プロレスの所謂『受けと魅せの美学』が加わることで言葉では言い表せないほどのシンパシーが生まれ、結果として読了した後はまるで一本の大作映画を観たかのような余韻に浸れる。
加えて、プロレスファンなら元ネタが解ると思わずニヤリとするような小ネタの数々も良いアクセントとなっていることも、述べておこう。
もし、あえてテーマ曲を付けるとしたら、『Grand Sword』で決まりだろう。