星の欠片と月の穴

@kudokeiji

第1話 星の欠片の誕生

夜空を見上げると星は幾つも暗い空にある。

田圃の真ん中にある、小さな家。

玄関とは呼べない引戸を開けると土間には母娘二人分の食器とテーブルと椅子が置かれている。

襖の向こうには六畳間の和室。

それだけの小さな家だ。

夜はいつもひとり。母がいない六畳の和室に娘がひとり。

もの心付いた時から、ずっとひとりだった。

母は、星が明るくなった空に溶け込むまで帰って来ない。

中学を卒業するまで、母娘の暮らしは続いた。


裕美に取って、小さな頃の記憶は、暗い空に浮かぶ星の灯りだけだ。


母が消えたのは、中学の卒業式の日だった。

その日、母と一緒に卒業式に出る予定だった。

「ねえ、明日は一緒に卒業式に行くよね」裕美が聞くと。

母は、一瞬悩みながらも頷いた。

でも、その日、母は朝陽が上っても帰って来なかった。

ひとりで出席した卒業式。

裕美は演台に上り卒業生代表として、後輩への別れの挨拶を読み上げる。

友人も無く、誰からも相手にされなかったけど、学力と美しさは生徒全員から羨望の目で見られていた。

もし、裕美が意地を張らず、自分から皆んなに近づいて行ったら中学生活は違っていたはずだ。

でも、人が住む家じゃない小屋のような家に住むしか無かった裕美には友だちを作る勇気は無かった。

「意地じゃない勇気が無かっただけ」演台から下り、自分の場所に戻る途中で、裕美は小さく呟いた。


卒業式の夜。

ひとりで過ごすしか無かった家から夜空を見上げる。

暗闇の中に小さな明るい光り。

その光りを掴むように空に向かって「星の欠片でいいから、私を輝かせて、お願いします」裕美は、はっきり大きな声で願いを言った。

空に流れ星、裕美は立ち上がって、掴もうとする。

でも、虚しくも指の隙間から星は流れていく。


それから高校入学までは、ひとりで暮らした。


特待生として、地方都市の私立高校が学費も寮費も全額負担で、裕美を受け入れることが決まっていた。

母がいなくても大丈夫。

裕美は心を強く持とうとしていた。


そして、高校を卒業するときには、誰もが振り返る美少女になっていた。

裕美も心のどこかに星の輝きを感じていた、まだ欠片だったけど。

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