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 さびれた、消えそうな海辺の駅が、終着点だった。

 わたしの他にだれも乗っていなかった鈍行列車を下りる。無人駅だ……もうわたしをひきとめるものもなく、そもそも切符だってなかった、あるのは……

 

 空はどんより曇り空。海へ出てみる。ゴミや魚の死骸の絶え間なく打ち寄せられた、汚い浜だ。いつか見たことがある……河口をはさんで向うの岸では、点ほどにしか見えないが、漁師と思しきすがたが何かの網を引きあげている。

 砂浜に下りる気にもならずに、堤防沿いを歩いてみた。

 遠くを、船が通っていくようだ。

 こんなところが、世界の果て、案外、そうなのかもしれない。……

 

 ――臨海遊園地 建設予定地(着工未定)――

 

 廃屋になった海の家を見つけ、そこに入る。ガラクタ達と一緒に、テーブルの下でまるくなっている、一羽だけの、とべない鳥。……むしろ、帰ってきたのかもしれなかった。

 

 夏はとっくにおわって、あるのはさむい風だった。

 

     *

 

 前の砂浜を、年老いた漁師ふうの男が通りがかる。

「あんたも、天使の噂を聞いてきたかね? こんな辺鄙なとこまで。

 ……

 昔、この近海でたくさんの天使がつかまり、殺された。今でも沖へ出ると、もやもやした天使達のまぼろしが見られる。亡霊だとも、その折の生き残りだとも言われとる。……」

 漁師は、盲いのようだった。わたしは、ポケットの紙きれを、漁師に手渡す。

「行くかね?! ボートを出してあげよう。……ほうこれは。……遊園地なら、もっと海の向こうの向こうに、今は沈んでおるだろうな。…… ……

 

 

 

 遊園地へ……



(初出「ユリイカ」2009.1月号)

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幻想童話集 k_i @imayui

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